7/6再開《音楽xSFxファンタジー戦記》【交響詩】竜の姫と絆のユニゾン ~最強の力は絆の中に。人類に裏切られた天才軍師の俺は六竜姫の激情を調律し和音を奏でて覇道を往く~5サイト33KPV
「王立・竜の子学園」が開校してから数ヶ月。
学園は、統一王国の「次世代の希望」を育む場所として、国内外から注目を集めていた。
そして今日、その成果を視察するために、世界各国の重鎮たちが一堂に会する「特別視察日」がやってきた。
「ようこそ、レオナルド殿、リヒター殿、そしてジオ殿。遠路はるばる感謝する」
王城の正門で出迎えるヒカルの表情は、王としての威厳を保ちつつも、どこか引きつっていた。
なぜなら、今日の視察が「平和な教育現場」のアピールになるか、「次世代の怪物たちの見本市」になるか、全く予想がつかないからだ。
「久しぶりだな、ヒカル王。……いや、今は『理事長』とお呼びすべきかな?」
人類側摂政レオナルドが、苦笑いしながら握手を求めてくる。彼の顔色もまた、激務によるものか、ヒカルと同様に少し青白い。
(ああ……。この人も、胃の痛い中間管理職みたいな立場だからな……)
ヒカルはレオナルドに親近感を覚えた。
「ふん。竜の子供らがどれほどのものか、この目で見定めさせてもらうぞ」
人類軍総帥リヒターは、武人らしい鋭い眼光を光らせている。彼にとって、次世代の戦力は国防の要だ。
そして、ドワーフ族長のジオ・アイアンハンドは、太い葉巻を燻らせながら鼻を鳴らした。
「ケッ。どうせ甘やかされたボンボンどもの遊び場だろう? 俺たちの技術を継げるような気骨のあるガキがいるとは思えんがな」
「ははは……。まあ、お手柔らかに頼みますよ」
ヒカルは乾いた笑い声を上げながら、一行を演習グラウンドへと案内した。
◇◆◇◆◇
案内されたのは、対魔法障壁で厳重に囲まれた、広大な演習グラウンドだった。
そこでは、ちょうど「体育(実戦形式訓練)」の授業が行われようとしていた。
グラウンドの中央には、生徒会長シリウスを筆頭に、ライオス、シズク、ソイルといった子供たちが整列している。
そして、彼らの対戦相手として布陣しているのは、重厚な鎧と魔導装備で身を固めた、大人たちの部隊だった。
リヒター総帥が、その部隊を見て眉をひそめた。
「……ほう。あの装備、あの身のこなし。ただの兵士ではないな。人類軍で言えば、精鋭騎士団長クラスの練度を感じるが……」
「ええ……」
ヒカルは額の汗を拭いながら、努めて冷静に答えた。
「あれは、我が軍の『第一近衛師団・特別遊撃隊』です。全員が数々の死線を潜り抜け、BPI強化手術も受けた、平均BPI 150を誇る猛者たちです」
「なっ!? BPI 150だと!?」
リヒターが驚愕する。一般兵がBPI 2〜5、騎士団長クラスでもBPI 20〜30の世界で、150といえば一騎当千の英雄クラスだ。それを訓練の相手にするなど、正気の沙汰ではない。
「あんな手練れを数十人も……。子供相手に、いささか過剰ではありませんか?」
レオナルドが心配そうに尋ねる。
「……見ていれば、わかります」
ヒカルが遠い目をした瞬間、開始の合図が鳴らされた。
「授業開始! 目標、先生たち(精鋭部隊)の包囲網突破!」
アウラ先生の無機質な声が響く。
「っしゃあ! 行くぜぇぇぇッ!!」
ライオス(炎/八歳)が、地面を蹴った。
ドオォォォォォン!!
爆発音と共に、ライオスの姿が消えた。
次の瞬間、精鋭部隊の最前列で巨大な炎柱が立ち昇った。
「うわぁぁぁッ!? 盾が溶ける!!」
「魔力障壁、全開! ……だめだ、貫通するッ!」
BPI 150の精鋭たちが、紙切れのように吹き飛ばされていく。
「ははっ! 鬼ごっこだー!」
上空から、セフィラの子供たち、リオとリベルが急降下する。彼らが巻き起こす竜巻は、重装歩兵たちを木の葉のように空へ巻き上げた。
「対空迎撃! ……速すぎる! 照準が追いつかん!」
「いやぁぁ! 降ろしてぇぇ!」
空中でくるくると回される歴戦の勇士たち。もはや訓練ではなく、災害現場だ。
「論理的に制圧します」
シズク(水/六歳)が眼鏡を押し上げると、数百本の氷の槍が空中に展開された。
「ひぃぃっ! 本気だ! 殺す気だ!」
「総員、退避! 退避ぃぃぃ!」
精鋭部隊の隊長が、涙目で撤退を叫ぶ。
「逃がしませんわ」
ソイル(土/七歳)が優しく微笑みながら地面に手を触れると、逃げようとする兵士たちの足元が隆起し、巨大な岩の檻となって彼らを閉じ込めた。
「あ、あの……。我々は、精鋭部隊、だったはずでは……」
檻の中で震える兵士たち。
その光景を見て、リヒター総帥は開いた口が塞がらなかった。
「あ、あれが……『子供』だと? 精鋭部隊が、まるで赤子の手をひねるように……いや、赤子にひねられているのか?」
「……ヒカル殿。あの精鋭部隊というのは、演出のためのエキストラとかでは……?」
レオナルドが現実逃避気味に尋ねる。ヒカルは胃を押さえた。
「残念ながら、の精鋭です。……彼らには後で特別ボーナスと長期休暇を与えます」
その時、カオスな戦場に一人の少年が割って入った。
生徒会長、シリウス(十歳)だ。
彼は右手に炎、左手に水の魔力を螺旋状に練り上げ、暴走するライオスの炎とシズクの氷を同時に相殺した。
「全員、停止ッ!!」
シリウスの一喝と共に、衝撃波が広がり、子供たちの動きが止まる。
「ライオス! シズク! 力の加減を考えろと言っただろう! 兵士さんたちが泣いているじゃないか!」
「ちぇーっ。だって、本気で来いって言ったじゃん」
「手加減の計算式は複雑で……つい」
シリウスは頭を抱え、震える精鋭部隊に向かって深々と頭を下げた。
「申し訳ありません! うちの弟妹たちが、加減を知らなくて……! 救護班、急いで!」
その姿は、歴戦の勇者というより、不祥事の謝罪会見をする中間管理職のようだった。
「……恐ろしい」
ジオが、ポかんと口を開けて葉巻を落とした。
「あのガキども……ワイバーンなんて、デコピンで沈めるレベルじゃねえか。あんなのが野放しになってるのか、この国は?」
「……はい。ですから、こうして学園に押し込……集めて、教育しているのです」
ヒカルの言葉に、視察団の全員が、深く、深く納得した。
「ヒカル王よ……。貴国の安全保障に対する懸念が、今、別の意味で最大化された」
リヒターが冷や汗を拭う。
「この子たちがグレないように教育すること。それが、世界平和にとって最重要課題だ」
◇◆◇◆◇
授業終了後。
「父上ー! 見てたか! 俺の必殺技!」
ライオスが煤だらけ(返り血ではなく、自分の炎の煤だ)の顔で走ってくる。
「お父様。私の氷結魔法、制圧時間を0.5秒短縮しました」
シズクも涼しい顔で報告に来る。
ヒカルは、恐怖に引きつる精鋭部隊(担架で運ばれていく)を背に、子供たちの頭を撫でた。
「あ、ああ……すごかったぞ。……でもな、兵士さんたちをいじめるのはほどほどに、な」
「いじめてないよ! 訓練だよ!」
無邪気なライオスの言葉が、一番のホラーだった。
ジオは、破壊された演習場の跡地へ歩み寄り、黒焦げになった残骸(ライオスたちが授業で作った自動魔力供給装置の残骸)を拾い上げた。
「……だが、力だけじゃねえな」
ジオの目が職人の光を帯びる。
「炎の出力を制御するために、土属性の重力場で圧縮してる……。こんな複雑な術式を、直感で組み上げてやがるのか」
ジオは瓦礫を懐にしまい、ニヤリと笑った。
「……まあ、退屈はしなさそうな国だ。俺たちの技術を継がせるのも、悪くねえかもしれん」
ヒカルは、これから始まるであろう「次世代との戦い(教育)」の激しさを予感し、そっと天を仰いだ。
平和な空には、まだ見ぬ脅威の予兆など微塵も感じられないほど、綺麗な虹がかかっていた。
(……あいつらが大人になるまで、俺の胃が持つだろうか)
王の苦悩は、まだまだ続く。
【第139話につづく】