7/6再開《音楽xSFxファンタジー戦記》【交響詩】竜の姫と絆のユニゾン ~最強の力は絆の中に。人類に裏切られた天才軍師の俺は六竜姫の激情を調律し和音を奏でて覇道を往く~5サイト33KPV
次の回廊は、物理的な境界を失ったかのような、無限の光に満ちていた。
その光は熱を持たず、ただ圧倒的な「白」で視界を塗りつぶし、思考の輪郭さえも溶かしていく。
『可哀想な子供たち……。争いはもう終わり。私の光の中で、永遠に眠りなさい』
光の中心に佇むのは、純白のドレスを纏った光の熾天使『|セラフィム・ルーナ《Seraphim Luna》』。
慈愛に満ちた聖女ルーナと瓜二つの姿で、彼女は世界そのものを包み込むように両手を広げた。
その瞬間、ヒカルの脳裏に絶望的な光景が流れ込んでくる。
それは、ここだけではない。地上のあらゆる場所で、人々が武器を捨て、虚ろな目で空を見上げている姿だった。
◇◆◇◆◇
地上では、ガイア率いる人類混成軍が、神兵の猛攻を前に立ち尽くしていた。
「……なぜ戦うのだ? もういいではないか。楽になろう……」
屈強な獣人族の戦士が、斧を取り落とす。
「計算……不能。戦う意義が……見出せません……」
エルフの魔術師たちが、詠唱を止めて膝をつく。
ドワーフの砲兵たちも、大砲の轟音に耳を塞ぎ、震えている。
天狗族も風を失い、地上へと降りていた。
「これが……神の救済……? いや、これは『思考の放棄』だ!」
必死に抵抗する人類軍の指揮官たちの声も、光にかき消されそうになる。
『全人類、全種族の精神波長に強制介入を確認。これは洗脳ではないぞ。「戦意」という概念そのものの削除だ』
地上側をみているカインの分身から通信が、ノイズ混じりに響く。その声には、珍しく焦りが滲んでいた。
「ヒカル様……! 私の光が、世界を……!」
ルーナが膝をつく。自分の姿をした天使が、世界中の心を折ろうとしている現実に、彼女の心が砕けそうになっていた。
◇◆◇◆◇
第一波前の覚醒:愛のフィードバック
その時、ヒカルの心に、強く温かい意志が流れ込んできた。
『ヒカル様! 惑わされてはいけません! これは偽りの安らぎです!』
リリアの声だ。
『王よ! 私たちは諦めていません! 地上の灯火は、まだ消えていません!』
レオーネの凛とした声が続く。
「……聞こえるか、ルーナ。地上のみんなの声が」
ヒカルはルーナの手を取り、立たせた。
「リリアが、レオーネが、ガイアたちが必死に抗っている。お前の光は、あんな冷たいものじゃないはずだ!」
「……はい! そうですわ。私の光は、人々の心を照らし、未来へ導くためのもの!」
ルーナの瞳に、再び強い意志の光が宿る。
「みんな! 目を覚ませ! あの光は偽物だ!」
ヒカルの叫びが、凍りついた空気を震わせる。
「……そうね。あんな安っぽい救済に、私の愛を上書きされてたまるもんですか!」
レヴィアが炎を燃え上がらせる。
「論理的に考えて、思考停止は死と同義。私は生きることを選びます!」
アクアが眼鏡を光らせる。
「行くぞ! 偽りの神を、俺たちの意志で否定する!」
◇◆◇◆◇
第1波:(ユニゾン)
「光を遮断する! ヴァルキリア! 闇の幕を!」
ヒカルが命じる。
ユニゾン参加メンバーは、ヴァルキリア(闇)、ミスティ(闇)、テラ(土)、ソイル(土)だ。
ヴァルキリアが前に出る。
「フン。眩しすぎて目障りだ。……光あるところに、影は落ちる。私の闇は、貴様の光ごときには染まらない」
ミスティも静かに影を広げる。
「……おやすみ、偽物の光」
テラとソイルが、闇の定着を助けるために、光を吸収する黒い土壁を隆起させる。
「大地よ、光を飲み込め! わらわの愛は、何物にも染まらぬ黒き土!」
ヴァルキリアのティンパニ(闇)が、重苦しいリズムを刻む。そこにテラのコントラバス(土)が加わり、光の高周波(ヒステリックな旋律)を相殺するような、低周波のを生み出す。
「4元ユニゾン――『』!!」
漆黒のドームが展開され、セラフィム・ルーナの光を飲み込む。
世界を覆っていた「白」が、一時的に「黒」に塗りつぶされ、人々の目に理性の光が戻る。
だが、光は闇の隙間から漏れ出し、精神への干渉を止めない。
『闇もまた、私の光の一部……。全てを包み込みましょう』
◇◆◇◆◇
第2波:信仰の盾と物理反射(連携技)
「闇だけでは防ぎきれません! もっと強い『意志』が必要です!」
シルヴィアが叫ぶ。
「シルヴィア、クラリス! 祈りを! 偽りの光を弾き返す、人の心の強さを見せろ!」
ヒカルの言葉に、二人の女性が祈りを捧げる。
連携技参加メンバー: シルヴィア(信仰)、クラリス(愛)、ユリウス(知恵/鏡面シールド)。
「王よ! 私たちの愛は、洗脳などされません!」
クラリスの透き通る声と、シルヴィアの祝詞が重なる。
「光よ、真実を照らせ! 偽りの救済を退けよ!」
その祈りは、物理的な光となって兵士たちの正気を取り戻させる。
「はっ……! 俺は一体……!」
地上の兵士たちが我に返り、再び武器を握る。
「僕が光の屈折率を計算する! 鏡面シールド、展開!」
ユリウスが杖を振るい、光を反射する多面体の結界を構築する。
「その光は偽物です! 真実の光は、人の心を縛らない!」
キンッ! キンッ!
セラフィム・ルーナの光線が、鏡面シールドに弾かれ、あちこちに散乱する。
◇◆◇◆◇
第3波:(ユニゾン)
「今です! 跳ね返された光を、逆利用します!」
アクアが勝機を見出す。
「ヴァルキリア! 貴女の闇を鏡の裏側に! シズク、マリン! 水鏡を極限まで研ぎ澄ませて! そして……アルテミス!」
アクアが叫ぶ。
アルテミスが震えている。自分の母と同じ顔をした天使を攻撃することに、恐怖を感じていたのだ。
「ママ……」
「アルテミス」
ルーナが娘の手を握る。
「あれは私ではありません。あれは、悲しみが生んだ幻影。……貴女の光で、本当の救済を教えてあげて」
「……うん。わかった!」
アルテミスが顔を上げる。その瞳に、迷いのない光が宿る。
ヴァルキリア(闇)、ミスティ(闇)、アクア(水)、シズク(水)、マリン(水)、ルーナ(光)、アルテミス(光)がユニゾンに参加する。
ヴァルキリアとミスティの闇が、空間に巨大な「黒い板」を作り出す。
その表面を、アクア、シズク、マリンの水流が覆い、完全な平面――「鏡」へと変貌させる。
水の流麗な旋律(弦楽器)が、闇の静寂(休符)の上で、歪みのない鏡面世界を描き出す。
そこに、ルーナとアルテミスのホルン(光)が、解決のを響かせる。それは、偽りの安らぎを否定し、真実を突きつけるファンファーレ。
「5元ユニゾン――『』!!」
巨大な闇の水鏡が出現する。
セラフィム・ルーナの放った精神汚染の光が、鏡に吸い込まれ、増幅されて跳ね返った。
だが、跳ね返ったのは「汚染の光」ではない。鏡の中で「真実の光」へと変換された、浄化の奔流だ。
『な……!? 私の光が……私を……!? あたたかい……?』
自らの放った「思考停止の光」ではなく、愛に満ちた「真実の光」を浴びた天使は、その機能にを生じさせた。
「救済」をプログラムされた存在が、自らを「救済(停止)」させてしまったのだ。
光の中で、天使の表情が初めて和らいだように見えた。
「……パパ」
アルテミスが、光の中で崩れゆく天使を見つめていた。
「あのお姉ちゃん、泣いてるみたい」
「……ああ。あれは、誰も救えなかった悲しみの形かもしれないな」
ヒカルは、消えゆく光に祈りを捧げた。
「さあ、次が最後だ」
回廊の最奥。
そこには、全てを拒絶するような、深淵の闇が口を開けて待っていた。
【第187話へつづく】