7/6再開《音楽xSFxファンタジー戦記》【交響詩】竜の姫と絆のユニゾン ~最強の力は絆の中に。人類に裏切られた天才軍師の俺は六竜姫の激情を調律し和音を奏でて覇道を往く~5サイト33KPV
『――ッ、……ぁ……』
消えゆく意識の中で、俺は必死に自我を繋ぎ止めようとしていた。
だが、神の「」コマンドは、個人の精神力でどうにかなるレベルじゃない。
指先から感覚が消え、記憶のアーカイブが白く塗りつぶされていく。
『おいおい。まさか、これで終わりじゃねえだろうな、英雄サマ?』
脳内の特等席から、呆れたような、それでいてどこか楽しげな声が響いた。
俺の思考領域にずっと居座り続け、この不毛な神との戦いを最前線で嘲笑い続けてきた、最悪の同居人。
『……遅いぞ、カイン。待ちくたびれた』
俺は消えかけの意識で、悪態をつき返す。
驚きはない。こいつが出てくるなら、このタイミングしかないと分かっていたからだ。
『はん。人使いの荒い王様だ。貴様が愛だの絆だのと非効率なで時間を稼いでいる間、俺はずっと裏で神のを洗っていたんだぞ? 感謝してひれ伏せよ』
傲慢で、不遜で、けれど頼もしいデータ人格。
かつての宿敵であり、今は俺の一部となった天才軍師、カイン。
『……で? 解けたのかよ。神様の難問は』
『愚問だな。この天才カイン様に、解けないパズルなど存在しない』
瞬間、神の眼にバチバチと赤黒いノイズが走った。
絶対的な管理者の瞳が、初めて「困惑」に揺らいだように見えた。
「――ガッ、アアアアッ!?」
俺の全身に、焼けるような痛みが戻ってきた。
痛い。熱い。苦しい。
だが、それは「生きている」証だった。透明になりかけていた俺の手足に、薄っすらと色が戻り始める。
『削除プロセス、遅延。原因不明の論理エラー(バグ)を検出』
神のシステム音声が、微かに揺らいだ。
完全に停止したわけではない。デリートの圧力は依然として俺を押し潰そうとしている。だが、何かがその進行を食い止めている。
「パパ!?」
「あなた、体が……!」
妻たちの声が聞こえる。
俺の体が完全に消える寸前で踏みとどまっているのを見て、彼女たちは即座に動いた。
「ルーナ! 解析を! 今のうちにヒカルの存在定義を固定するのよ!」
ヴァルキリアが叫ぶ。彼女は即座に俺の背後に回り込み、闇の魔力で俺の輪郭を縫い留めるように固定し始めた。
闇は「存在」そのもの。虚無に飲まれる俺を、現世に繋ぎ止める楔となる。
「わかっています! セフィラ、風で情報の拡散を防いで! 私が光のコードで再構築します!」
ルーナが光の鍵盤を叩くように空中に術式を展開する。
セフィラが風の結界で俺を包み、俺から漏れ出しそうになる「存在データ」を無理やり押し戻す。
「やらせるかぁぁぁッ!!」
レヴィアが吠え、アクア、テラと共に、迫りくる6体のセラフィムたちの前に立ちはだかった。当然、六天将もだ。
子どもたちも、小さな手を合わせて必死に立ちふさがり、そして、祈っている。その純粋なマナが、ルーナたちの作業を加速させる。
現実空間での妻たちの奮闘と並行して、俺の意識は、システム内部の深淵へと潜っていた。
そこには、見慣れた白衣姿の男が、腕を組んでふんぞり返っていた。
ノイズ混じりの半透明な体。俺の記憶領域を食い荒らしながら存続している、性格の悪いバグの塊。
『見ろよヒカル。あの完璧主義の神が、計算違いに顔を青くしてやがる』
カインは指先で、虚空に浮かぶ巨大な「神の論理構造図」を弾いた。
そこには、無数の赤いが灯っていた。
『ここまでの数日……いや、もっと前か。貴様というを内側から観察していて、確信したことがある』
カインはニヤリと笑い、眼鏡の位置を正す。
『は「正解」しか処理できない。1+1=2という絶対のルールの上でしか神ではない。だが、貴様ら人間は違う。平気で1+1を10にもマイナスにもする「矛盾」の塊だ』
「……それが、俺たちの『愛』だって言いたいのか?」
『愛、絆、感情。呼び方はどうでもいい。重要なのは、それが論理的整合性を無視して出力を増幅させる「バグ」だということだ』
カインの瞳が、狂気的な熱を帯びて輝く。
彼はこの瞬間のために、俺の中でずっと息を潜め、俺の感情データを解析し続けてきたのだ。
『俺の役目は終わった。解析完了だ。貴様のその非効率で暑苦しい「愛」というデータを、神が読み込めない「致死性ウイルス」に変換する……組み上がったぜ』
カインの体が、足元から崩れ始めた。
サラサラと光の粒子になって、システムの大河へと溶けていく。
「……カイン。お前、まさか」
『勘違いするな。俺はとっくに死んでる。ここにあるのは残りカスだ。……だが、最後に特大の置き土産を残してやる』
カインは両手を広げた。
彼の崩壊するデータそのものが、猛毒のウイルスとなって神の中枢へと侵食を開始する。
『俺の残存リソースを全て突っ込んで、貴様の「愛」をシステム全体に強制インストールしてやる!! 神の論理如きに、俺たちの最高傑作(物語)を終わらせてたまるかよ!』
「……ははっ。最後まで、負けず嫌いな野郎だ」
『受け取れ、ヒカル! これが俺からの最後の嫌がらせだ! 貴様のその「矛盾」で、神の完璧な世界を焼き切ってしまえ!』
カインの姿が弾け飛んだ。
その瞬間、俺の意識に膨大な情報と計算式が流れ込んでくる。
それは攻撃魔法ではない。
俺たちが積み上げてきた想いを、システムへの「攻撃コード」へと変換する、天才カインの最終演算式。
『――愛とは、論理の否定である。故に、最強だ。……あばよ、ヒカル。せいぜい、つまらない「正解」をひっくり返してこい』
最後の皮肉を残し、脳内のノイズがふっと消えた。
直後、現実世界での絶叫が響き渡った。
『警告、警告、警告!! 論理矛盾発生! 定義不能のパラメータ「LOVE」が基幹システムに侵入! 処理速度低下! 排除不能! 排除不能!!』
神の眼が激しく明滅し、痙攣したように動きを止める。
同時に、俺たちを取り囲んでいた6体のセラフィムたちの動きも、糸が切れた人形のようにガクンと停止した。
「……動かない?」
レヴィアが剣を構えたまま呟く。
俺の体から、透明化の現象が完全に消え去った。
力が戻ってくる。いや、以前よりも強く、熱い力が。
カインが残した演算式が、妻たちや娘たちから注がれる愛のマナを、全て神への特攻兵器へと変えているのだ。
「……ありがとな、カイン。お前の『嫌がらせ』、最高に効いてるぜ」
俺は剣を握り直し、立ち上がった。
涙は流さない。あいつはそんなものを望んでいない。
俺ができる最高の手向けは、あいつの計算通りに、このふざけた神様を完膚なきまでに論破してやることだけだ。
「みんな、聞こえるか! 神の動きが止まった! システムが混乱している今が、最初で最後の好機だ!」
俺の声に、妻たちが弾かれたように顔を上げる。
その瞳に、絶望の色はもうない。
「パパ! 手が温かい!」
足元でシズクが俺の足にしがみつき、泣き笑いの顔を見上げる。
「ああ、もうどこにも行かない。……さあ、フィナーレだ」
俺は神の眼を見据えた。
その巨大な瞳は、今はただのバグったレンズに過ぎない。
「カインがこじ開けてくれた風穴だ。俺たちの愛で、あそこをぶち抜くぞ! 神殺しの準備はいいか、愛する妻たちよ!」
「「「はいっ、あなた!!」」」
六龍姫たちの咆哮が、虚無の空間を震わせた。
逆転のファンファーレが鳴り響く。
【第189話へつづく】