7/6再開《音楽xSFxファンタジー戦記》【交響詩】竜の姫と絆のユニゾン ~最強の力は絆の中に。人類に裏切られた天才軍師の俺は六竜姫の激情を調律し和音を奏でて覇道を往く~5サイト33KPV
リリアの死から、さらに数年の月日が流れた。
季節は巡り、穏やかな秋の日のこと。
ヒカルは、自らの身体に訪れている「終わりの予感」を静かに受け入れていた。
かつて竜の力を宿し、酷使した代償か。老いの速度は緩やかだったが、ここに来て急激に生命の灯火が揺らぎ始めていたのだ。
「……さて。最後に、デートでもするか」
ヒカルは杖をつき、愛しい妻たち一人ひとりと、思い出の場所を巡ることにした。
まずは、王宮の庭園。
テラが車椅子を押しながら、ゆっくりと散歩をする。
「ヒカル様。ここは、わらわたちが初めて家族としてピクニックをした場所ですね」
「ああ。あの時はソイルが泥団子を作って、俺に食べさせようとしたっけ」
「ふふ。……貴方の作ってくれた『居場所』は、こんなにも暖かくなりました」
テラはヒカルの手を頬に当て、変わらぬ慈愛で包み込む。
次は、風の吹き抜ける塔の上。
セフィラが、老いたヒカルの肩を抱き寄せている。
「ねえヒカル。風の音、聞こえる?」
「ああ。……昔より、優しくなった気がするな」
「ヒカルが自由にしてくれたからだよ。……私の翼はなくなっちゃったけど、貴方と過ごした時間は、どんな空よりも広くて自由だった」
セフィラは涙をこらえ、ヒカルの白髪を梳いた。
書庫では、アクアが静かに本を読んで聞かせていた。
「……論理的に考えて、貴方との人生は『最高効率』でした」
「ははっ。アクアらしい褒め言葉だ」
「ええ。計算外のトラブルばかりでしたが……その全てが愛おしいでした」
アクアは眼鏡を外し、ヒカルの目尻の皺に口づけを落とす。
礼拝堂には、ルーナの祈る姿があった。
「ヒカルさま。貴方の魂は、いつまでも私たちの光です」
「俺を買いかぶりすぎだ、ルーナ」
「いいえ。貴方がいたから、世界は調和を取り戻しました。……私を、絶望の淵から『幸せな妻』にしてくれて、ありがとうございました」
そして、夜のバルコニー。
ヴァルキリアが、ヒカルと並んで星空を見上げている。
「……フン。貴様にしては、よく生きた方だ」
「手厳しいな、ヴァルキリアは」
「……だが、悪くない人生だったろう。貴様の背中を守る役目、この私が全うしてやったぞ。……私も幸せだったわ」
彼女は照れ隠しに顔を背けるが、繋いだ手は痛いほど強く握りしめられていた。
最後に、暖炉の前。
レヴィアが、ヒカルの膝に頭を預けて座っていた。
出会った頃のように、情熱的な瞳で見つめ合う。
「ねえ、ヒカル。覚えてる? 私が貴方を拾った日のこと」
「忘れるもんか。……あの時、お前が俺を見つけてくれなかったら、俺の人生はとっくに終わってた」
「ううん。貴方が私に『恩返し』をしてくれたから、私の運命は動き出したの」
レヴィアはヒカルの手に自分の手を重ねる。
そこには、シワシワになった人間の手と、若々しいままの竜の手がある。
種族の違い、寿命の違い。
けれど、流れる想いの熱量だけは、今も変わらず等しい。
「愛してるわ、ヒカル。……何百年経っても、貴方は私の最初で最後の王様よ」
「ああ……。俺もだ、レヴィア」
六つの愛を再確認し、ヒカルは深く、満足した息を吐いた。
その夜、ヒカルは深い眠りについた。
夢の中に、懐かしい影が現れる。
『――よお、凡人。随分と長生きしたな』
若き日の姿のまま、カインがチェス盤の前で待っていた。
ヒカルもまた、全盛期の姿に戻って向かい合う。
「……カイン。まだいたのか」
『はん。ただの残滓だ。貴様の脳裏に焼き付いた記憶のな』
カインはチェスの駒を進める。
『お前の作った世界を見ていたぞ。……非効率で、無駄が多くて、感情的で……』
「……最悪か?」
『いや。……悪くはない』
カインはフッと笑い、自分のキングを倒した。
『俺の負けだ、ヒカル。愛だの絆だの……計算できない要素をここまで積み上げるとはな』
彼は満足げに立ち上がり、ヒカルの背中を押した。
『行け。皆が待っている。……これが本当の別れだ。あばよ、最高のよ』
光の中で目を開けると、そこは温かな寝室だった。
視界が少し霞む。
けれど、周りに誰がいるのかはすぐに分かった。
右手にレヴィア、左手にアクア。そして、周りにテラ、セフィラ、ルーナ、ヴァルキリア。
愛する妻たちが、微笑んで覗き込んでいる。
そして、その周りには、立派に成長した子供たちが勢揃いしていた。
立派な髭を蓄えた国王ライオスと、その妻シズク。
軍服姿のシリウスとのノア。
知的な眼鏡をかけた宰相ユリウスとソイル。
自由人のリオとフウガ、クロノスとリベル。
そして、美しく成長したアルテミス。
さらに、部屋の隅には賑やかな顔ぶれがいる。
「父上! 起きましたか!?」
大柄な体躯に似合わず泣きそうな顔をしているのは、テラの息子グラウンドだ。
彼は今や世界中を飛び回る高名な地質学者として活躍している。ついでに各地の旨いもの巡りをしているらしい。研究一筋で未だ独身だが、その逞しい身体つきは頼もしい大人の男のものだ。
「もう、グラウンドったら泣かないの! 父上が心配するでしょ!」
彼の背中を叩いているのは、アクアの次女マリン。その隣には、彼女を射止めたレオン皇子の姿もある。
「……父上、お加減はいかがですか?」
眼鏡を光らせて冷静を装っているが、手が震えているのはミスティだ。
彼女もまた、母譲りの力を活かして希代の占い師として名を馳せている。ミステリアスな魅力で多くの信奉者を持つが、彼女もまた独身を貫く自立した女性として、父の前に立っていた。
彼らの足元には、さらに小さな子供たち――ヒカルにとっての孫やひ孫たちが、心配そうに、けれど好奇心旺盛な瞳で見つめている。
(ああ……なんて、賑やかなんだ)
部屋中が、家族の愛で満ち溢れていた。
かつて孤独に震え、処刑台に立たされた少年の最期とは、とても思えない。
「……みんな」
ヒカルの声に、全員が息を呑んで耳を傾ける。
「……愛している。……ありがとう」
ありふれた言葉。
けれど、これ以上の言葉はなかった。
ヒカルがゆっくりと瞼を閉じる。
握りしめていた妻たちの手の温もりが、魂の奥まで染み渡っていく。
呼吸が、静かになる。
心臓の鼓動が、ゆっくりと、やがて止まる。
ヒカル・クレイヴ。享年、百と二歳。
激動の時代を駆け抜け、種族を繋ぎ、世界を調律した王は、愛する者たちに見守られ、穏やかにその生涯を閉じた。
妻たちは、泣き崩れなかった。
彼女たちは涙を流しながらも、凛として微笑み、王の旅立ちを見送った。
「おやすみなさい、私たちの最愛の王」
「また会いましょう、あなた」
その愛は、死をも超えて繋がっていることを、彼女たちは知っていたから。
◇◆◇◆◇
――そして、数百年後。
世界はさらに様変わりしていた。
空には反重力シップが飛び交い、人々は高度な科学文明の中で暮らしている。
「竜」や「魔法」は、完全におとぎ話の中の存在となっていた。
ある晴れた日の午後。
近代的な学校の校舎裏で、一人の少年が本を読んでいた。
黒髪に黒目の、少し気弱そうな少年だ。
そこへ、一人の少女が走ってくる。
燃えるような赤い髪、勝気な瞳。
「あ! いた! ねえ君、これ落としたでしょ?」
少女が差し出したのは、古びたしおりだった。
少年は驚いて顔を上げる。
「あ、ありがとう……。探してたんだ」
「ふふ、どういたしまして。……ねえ、私、レヴィっていうの。君は?」
少年は少し迷って、はにかみながら答えた。
「……ヒカル。僕は、ヒカルっていうんだ」
少女の目が輝く。
「へぇ! 教科書に出てくる伝説の王様と同じ名前ね! かっこいい!」
「そ、そうかな……」
風が吹き抜ける。
二人の出会いを祝福するかのように、校庭の桜が舞い散る。
学校の広場には、古びた銅像が立っていた。
優しげな青年の周りを、六人の美しい女性と、多くの仲間たちが囲んでいる像だ。
台座には、古代文字でこう刻まれている。
『優しさは、いつか必ず最強の力になる』
かつて世界を救った「竜の恩返し」の物語は、形を変え、時代を超えて、新たな命へと受け継がれていく。
二人が笑い合う声が、青空に吸い込まれていった。
【――Fin.】
(あとがき)
このあとがきまでお付き合いいただきありがとうございました。
昨年の9月に思い付きから始めたこの「竜の姫と絆のユニゾン」ですが、自分で思っていた以上に壮大な物語となりました。
おそらく多くの読者の方は、このあとがきまでたどり着いていないかと思います。このあとがきを読まれているだけで、めちゃくちゃ熱心に支えていただいたファンだと思っています。
ヒカルとレヴィアの物語は、これにて終了です。
たくさんの登場人物がいますので、スピンオフ作品とかも作れそうですが、このままにしておくのが一番いいのではないか、と思います。
改めて、12月からの長期連載にお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
あ、もし、このあとがきを偶然最初に読んだ、という方は、ぜひ壮大な物語を追体験していただければ、と思います。
趣味での創作活動ですが、今回は、文章と音楽を掛け合わせた相乗効果、というチャレンジもありました。
なかなかプラットフォームの制約もあって十分にできたかというと、まだまだのところもありますが、生成AIをフル活用することで、こんな世界が発信できるというのは、なんとも幸せな時代になったと思います。
引き続き別の作品を発表できたら、と思います。
また全然違う切り口で、私の紡ぎだす世界を楽しんでいただければ、幸いです!