【完結】冷徹侯爵様、お気の毒なので『円満な婚約解消』して差し上げます
色々あった開港式から、早いもので二か月が経ちました。
新しく完成した港には、各国からの巨大な貿易船が毎日続々と集まり、活気に満ち溢れています。
新しい港の施設を維持していくには多くの人手が必要なのですが、そこはさすが我が家のお父様と、リチャード様のお父様であるダッフル侯爵様です。
失脚したレイモンド伯爵に代わってお父様が新しい領地を治めることになったため、元レイモンド伯爵領の港で働いていた領民たちはすべてダッフル侯爵領の港で受け入れることがお父様同士の話し合いで決められたそうです。
これならば誰も職を失わずに済みますわね。確かにこれからは、入港料が無料で王都へも近いダッフル侯爵領の港へ、大陸中の商船が向かうに違いありませんもの。
その代わり、お父様はオーク材の取引のための港として、元レイモンド伯爵領にある古い港を活用することにいたしました。
あちらの港の方が、森林地帯から川を伝って運ばれてくるオーク材を陸揚げするのに圧倒的に便利なのです。
もちろん、アルファンブラ帝国の船の入港料はこちらも当面の間は無料にいたしました。
そういえば、つい先日もアルファンブラ帝国の第一王子殿下から直筆のお礼状が届いたばかりでした。
手紙には、私たちが帰路のために用意していただいた帝国の最新鋭の大型船が無事に本国へ戻ったこと、そしてその船いっぱいに『お土産』として載せてお返しした我が領地特産のオーク材に対する、感謝の言葉が綴られていたのです。
《大量の上質なオーク材、誠に感謝する。帝国の造船技術とノートル領の木材があれば、素晴らしい船が完成するだろう。また近々会える日を楽しみにしている》
相手が最も欲している最高品質のオーク材を船いっぱいに積み、お返しとして贈る。
どうやら王子殿下のお心をしっかり掴めたようですわ。
『これぞ立派な一流の商人ですわね』と、心の中で思わずふふんと胸を張ってしまいましたわ。
でも……『また近々会える日を楽しみにしている』? 近々会えるとは? ……まあ、特別な意味はないのでしょう。
(今は深く考えるのをやめ、意識を目の前の事業へと戻します)
このように古い港をオーク材の運搬専用にしたため、今迄のように入港料や周りの施設の利益は上がりませんが、それでも全く問題ありません。そのために始めたのが、我が国の新しい一大事業である造船業なのですから。
船というものは、一回造って売って終わりではありません。
毎年、必ず定期的な点検や整備が必要なのです。
例えば、帆の交換、マストの交換、船底の防水加工、その他各所の修理などなど。
つまり、船が海を走り続ける限り、造船所には永続的に仕事が入り続け、ずっと儲かり続ける仕組みなのですわ。
一方で、リチャード様たちのダッフル侯爵領の新たな港は、これからもずっと、大勢の人で賑わうことでしょう。
あらかじめ用意していた頑丈な大型倉庫も、今やほとんど諸外国からの荷物で埋まっていました。
綺麗に整備された商業施設もどこも大繁盛で、以前レイモンド伯爵領で商売をしていた商人たちも、あちらにいた頃より間違いなく利益が上がっているため、誰もが満足そうにしています。
「ふふふ、こんな素晴らしい状況がこのまま続いていくのなら、ダッフル侯爵家が抱えていた多額の負債も、すぐに完済されますわね」
(リチャード様、本当に、本当によく頑張りましたね。これで『円満な婚約解消』は、もうすぐ目の前ですわ!)
わたくしは、美しい港を見渡しながら、思わず呟いてしまいました。
これでダッフル侯爵領の財政は大丈夫です。
次は、お父様が王家から授かった元レイモンド伯爵領での新しい事業を確実に成功させなくてはなりません。
わたくしは皆が学んでいる民家へと向かいました。
民家に着くと、帝国から来ていただいた三人の技術者のもとで、多くの若者たちが真剣に学んでいる姿が目に入りました。
造船所が正式に完成するまでは、あらかじめ借り上げていたこの森林地帯の民家で、彼らが指導を行っています。嬉しいことに思った以上に造船業の希望者が多く、近隣からたくさんの若者たちが集まってくれました。
そんな光景を見つめながら、わたくしはここ最近ずっと気になっていることを考えます。
それは、アルファンブラ帝国のことです。
短期間で船を造りすぎたせいで、国内のオークの木はほとんどなくなってしまいました。この領地のオークも、目先の利益だけを考えて伐採し続ければ、いずれ同じ道をたどるでしょう。
そこで、わたくしはある計画を思いつきました。
オークは、造船に使える大木になるまで八十年から百五十年もかかります。だからこそ、今年から毎年どんぐりを育て、計画的に苗木を増やしていくのです。
(伐採した木一本につき、最低でも三本は植えなくてはいけませんわね。病気などで育たない木もありますもの)
オークを植えるということは、自分では使えない木を、未来の子や孫、その先の世代へ残すということです。昔の賢い国や領主たちも、そうして森を守ってきたと本で読みました。
(目先の利益だけではなく、何百年も先を見据えて領地を経営することこそ、この地を任された者の使命だと思うのです)
そうして『未来のためのどんぐり計画』を思いついたわたくしは、早速お父様に相談しようと足早に屋敷へ戻るのでした。