【完結】冷徹侯爵様、お気の毒なので『円満な婚約解消』して差し上げます
ルシアンとリチャード。少し天然で、誰よりも純粋な恋がここにようやく成就した。
周囲の者たちは誰もが、そんな二人を微笑ましく見守っている。
あれほどルシアンを敵視していたステファニーは、ルシアンの父の愛の力で、今ではすっかり取り巻きたちを無くし、驚くほど大人しくなっていた。
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そして、半年にわたる歳月を経て、この国初の商船がついに完成した。
初めにルシアンが提案していたリスクを考えた、権利の16分割。
出資者を広く募ったところ、隣国のアルベールの父や、リリアーナの父など、そうそうたる名門の貴族たちがこぞって名を連ねた。これだけの後ろ盾があれば、造船事業の未来は明るい。
それから、これもまた彼女が提案した『未来のためのどんぐり計画』。アルファンブラ帝国でもこの取り組みに共感し、将来の国のためにと、同じ計画が進められている。
両国が子や孫、その先の世代まで見据えた計画だ。
また、国王は、帝国の王子による宣言で、ひとまずノートル男爵領の奪還を断念したようだ。しかし、政治の世界はいつだって油断は禁物である。
──── だからこそ、いつだって身を引き締めていなければ。
そんなわたくしの不安を吹き飛ばすかのように、新しい港は、今日も相変わらず活気に満ち溢れています。
実はリチャード様、最初は大真面目な顔で、わたくしのお父様に「すべての借金を返済し終えてから、改めてルシアン嬢にプロポーズをする」と宣言しました。ですがそれを聞いたお父様がすかさずこう言ったのです。
「そのような悠長なことを言っていると、『愛のリスクの分散』とやらが遠のいてしまう。その間にルシアンの気持ちが変わってしまうかもしれないぞ?」
お父様の忠告を聞いたリチャード様は「それだけは困る!」とあっさりと折れたのでした。
そうして今度は、わたくしたち二人に向かって、優しい眼差しで語りかけます。
「君たちは同じ相手に二度も恋をしたんだ。そんな奇跡にはそうそうお目にはかかれん! だから誰よりも幸せになるんだ。自分が幸せでなければ、大切な人を幸せにすることはできない。だからまずは、自分を幸せにしてあげなさい」
お父様の言葉にリチャード様は、はっとした後、みるみる表情を輝かせます。
「『同じ相手に二度も恋をした』……ということはルシアン、君の初恋の相手は私だったのか!?」
そんな彼の様子に、今度はお父様の方が目を丸くして驚きます。
「何だ、君は何も聞かされていないのか?」
お父様は懐かしそうな柔らかな眼差しでリチャード様へ語りかけました。
「実はな、私がここまで事業を大きくしたのは全て、ルシアンの願いを叶えてやるためだったのだ。幼い頃に自分を助けてくれた素敵なお兄様、それはつまり君のことだな。その人と結婚するの! という娘のために、少しでも侯爵家と釣合いが取れるよう、私は死に物狂いで働いてきたのだよ」
お父様の思い出話を聞いたリチャード様は、胸がいっぱいになったご様子で、それはそれは嬉しそうに微笑まれました。
そしてお父様に向かって、深く、深く頭を下げたのです。
「お義父様……本当に、本当にありがとうございました」
(でも……ごめんなさい、リチャード様。こんなこと、今さら口が裂けても言えませんが、実はわたくし、幼い頃のそのお話をすっかり忘れておりましたのよね。もちろん、お父様もお母様もその事実を彼に伝える気はないようですし、わたくしだって口にするつもりはありませんわ。このことは、わたくしたち三人だけの永遠の秘密です)
そんなお父様のお話を聞いているうちに、懐かしい記憶が鮮やかに蘇り、わたくしたちは顔を見合わせ、微笑んだのです。
そして、穏やかで温かな感動に包まれる中、今度はリチャード様が、まっすぐにわたくしを見つめておっしゃいました。
「努力をすれば報われる? そうじゃない。報われるまで努力をするんだ。私は家族が報われるその日まで、いいやその先もずっと、生涯努力を惜しまないと誓う」
「ええ、リチャード様。それならばわたくしは、そんなあなたを支えて参りますわ」
そうなのです。互いを支え合い、ともに歩んでいくこと。それこそが、二人にとって何よりの幸せなのかもしれません。
新たに造られた商船が、明日に向かって静かに船出をするように。
わたくしたちもまた、希望を胸に、新たな一歩を踏み出すのです。
たくさんの遠回りをして、何度もすれ違い、一度は別々の道を歩みかけた二人。それでも、こうして再び巡り会うことができました。
きっと、これはもう、お互いにとって必然だったのでしょう。だからこそ、繋いだこの手を、もう二度と離すことはありません。
そう告げたわたくしにリチャード様は少し驚いた? いいえ、かなり呆れた顔で言いました。
「私はもうとっくに、二人の出会いは必然だと思っていた。なのに君は今ようやくそう思えたのか? ……それでも、同じ気持ちになれたことが何よりも嬉しいよ」
そう言って、苦笑なさると、わたくしをそっと抱き寄せてくださいました。
人は皆、わたくしたちのことを『不器用な愛で結ばれた二人』と呼びます。ですが、それでいいのです。ゆっくりでも、一歩ずつ確実に前へ進んでいけるのなら、それだけで十分なのです。
だって、わたくしたちの未来への航海は、今、ここから始まるのですから。
完