水属性の魔法使い
時は現在。
近くのお茶屋さんの個室に入った涼とアベル、そして友好の証二号君。
二号君が持ってきたリュン親王の書状を二人は読んだ。
そこには、リュン親王陣営、帝都、皇帝の置かれた状況が細かく書かれていた。
そして最後に……。
「皇帝の救出依頼か」
「なんということでしょう……」
アベルは難しげな顔をしているが、涼はなぜか喜びが顔に表れている。
当然、涼のそんな表情を見て怪訝な表情になるアベル。
「なぜリョウは、喜んでいるんだ?」
「え? よ、喜んでなんていませんよ?」
アベルの指摘に、うろたえる涼。
「皇帝陛下には良くしてもらいましたし、そんな人が拉致されたとかマズい状況じゃないですか! 僕たちは全力を尽くして依頼を達成しなければなりません!」
「全く同感なんだが……リョウのその表情については一切言及してないな」
「僕の表情は決意の表れです! 必ずこの依頼を遂行するという!」
「そうか」
涼の言葉に胡乱げな目を向け、全く信じていない顔のまま頷くアベル。
アベルは会話をしている間に理由は思いついていた。
「まさか、王道展開とかそんなことを考えているんじゃないよな?」
「当たり前じゃないですか! そんなことは全く考えていませんよ!」
そう、涼は考えていたのだ。
『偉い人の救出依頼』というラノベ的王道展開がついに来たと。
しかし、親王や公主らを含めて、みんなは大変な気持ちであろうことも分かっているので、いつものように王道展開になったのを喜ぶのはさすがに良くないだろうと。
だから、ごまかした……。
ごまかしたつもりだった……。
ごまかせてないかもしれないけど表立っては言わないようにしようと。
だが、やる気があってそれが人助けに繋がるのなら……決して責めるようなことではないとも思うのだ。
……多分。
「他に入っていたのは、第十船への命令書と補足の説明書に……金属の板? 錬金道具か?」
アベルがカード状の錬金道具を見る。
「禁軍統領のティンさんが持っていたやつですね。皇帝陛下の場所が分かるみたいです」
涼が説明書を見ながらいじくる。
距離や方向が分かるらしい。
もしかしたら皇帝陛下の体には、この錬金道具に関する何かが埋め込まれているのかもしれないと考えながら。
「ティンさんは無念だったでしょうね」
「主を守り切れなかったんだからな。だが幻人が相手なら仕方ないだろう。自分では勝てない、足手まといになると分かっているから、こうして追跡する錬金道具を俺らに預けてきたんだろうし」
「まあ、そうなんですけど」
アベルの言葉に涼も頷く。
期待されていたのに力不足で結果を出せない……一番、心に堪えるのだ。
「彼ら、待っている人たちのためにも成功させるぞ」
「ですね。幻人の本拠地に殴り込みとなったら、幻王を倒す機会もあるかもしれませんし」
涼が二号君の魔石に魔力をフル充填した後、依頼受領の件などを紙に書いて友好の証二号君に手渡した。
「二号君頼んだ」
もちろん二号君は何も言わずに受け取ると、走り出していった。
それを見送る涼とアベル。
「二号君の表情は、やる気に満ちていました」
「……そうか」
涼が、子の成長に目を細めるような表情で言い、アベルは何とも言えない表情で頷いた。
もちろんアベルには、ゴーレムの表情など全く分からないので。
だが、別の疑問があったのでそれを聞くことにする。
「なんであのゴーレムは、リョウの場所が分かったんだ?」
「はい?」
「いや、俺ら式典に出たから長く首都に留まっていたけど、それを理解したうえでここに来たんだろう? 本来なら港町ホイアンとかに行って、もう出航してるはずだったわけだし」
「ああ、それは二号君を僕が作ったからです」
「はい?」
涼の簡潔すぎる説明に、アベルは理解が追い付かない。
「僕が自分で作ったものとは、見えない魔力線みたいなのが繋がっているという話は以前しましたよね?」
「聞いた覚えがある。どれだけ離れていても、氷の棺の解凍とかできるって話だろ」
「それです。二号君は僕が作ったので、そういう魔力線みたいなのが繋がっているのです」
「魔力の供給は、魔石を積んでいてそこからだと言っていたよな?」
「ええ、ええ。多分、僕からの魔力の供給はされていないと思うのですけど、繋がりはあるみたいなんですよね。僕も正確には知りませんけど。多分それを伝って、二号君は僕の場所が分かったんだと思います」
いろいろとまだ、涼にとっても推測の部分がある。
そもそも『魔力線』とは何かと問われても、ちゃんと答える自信はないわけで……。
「まだまだ、魔法や魔力に関して知らない部分が多すぎます」
「魔法使いはいろいろ大変だな」
「剣士だって……剣の道を極めるのは大変でしょう? 何でもいっしょですよ」
「そうかもしれんな」
王宮から借りた馬に乗って、港町ホイアンに直行した二人。
本当はもう少しゆっくり、物見遊山の移動をと思っていたのだが、そうもいかなくなったので。
港湾局のようなところで手続きと馬の返却をして係留されているダーウェイ公船第十船に向かった。
第十船はすでに準備を終えて、いつでも出発できる状態のようだ。
実際、二人が乗船すると最終点検が始まった。
「リョウさん、アベルさん、よくご無事で」
第十船船長ラー・ウーがそう言って握手した。
それに首をかしげる涼とアベル。
『よくご無事で』とはどういうことか?
「アティンジョ大公国のもてなしは素晴らしいものでしたよ?」
いちおう外交問題になってもいけないので、涼はちゃんとしたもてなしを受けたことを伝えておく。
すると、ラー・ウー船長も自分の言い方が誤解を招いたことを理解したようだ。
「失礼しました。大公国ではなく、ダーウェイ本国の方でいろいろ起きたようで」
「あれ? なぜ知っているんです?」
「実は昨日、ある人物が訪ねてきました」
ラー・ウー船長がそう言うと、船尾船長室の扉が開いて一人の男性が出てきた。
「リー・ウー刺史?」
涼が驚いた表情で問う。
アベルも隣で驚いている。
そこで涼はふと思った。
「ラー・ウー船長とリー・ウー刺史って、名前が似ていません?」
「はい。リーは年の離れた兄です」
「そう、ラーは年の離れた弟ですな」
そういうことらしい。
リー・ウー刺史は御史台のシャウ司空に頼まれて、ロンド公爵への届け物を持ってきたそうだ。
だが頼まれはしたもののどこに向かえばよいか分からないため、海岸伝いに南下してきて、アティンジョ大公国のこの港町ホイアンでダーウェイ公船第十船が停泊していることを知った。
公船第十船といえば、弟ラーが船長。
長いこと話していないが兄弟は兄弟。
それで確認してみたらロンド公爵を待っていると。
「それにしても、リー・ウー刺史は早かったですね」
「早かった? いえ帝都ハンリンを出て二週間ほどかかっています……」
「ああ……そうなのですか」
リュン親王らと連携した動きかと思ったのだが、そうではなかったようだ。
リュン親王たち外交団が帝都に戻ってくる前にシャウ司空は動き出し、涼に何かを渡したかったらしい。
「こちらになります」
そういってリー・ウー刺史が涼に渡したのは紙の束。
何やら防水用の錬金術が施された袋に入っている、五十枚ほどの紙。
「ユン将軍から抜き出した、チョオウチ帝国の情報?」
涼は題名を読むと驚いて思わず口に出した。
それを聞いて、アベルも横から覗き込む。
ちょうどそのタイミングで、ラー・ウー船長に報告が届いた。
「出港準備、全て整いました」
「分かった」
ラー・ウー船長はそう言うと、涼たち三人の方を向いた。
「まず出航して北上しましょう。その間、読む時間はたっぷりありますから」
まるで、ラー・ウー船長はどこに向かえばいいか分かっているかのようであった。