水属性の魔法使い
剣を持つオスカーに打ちかかるニルスとアモン。
二人の飛び込み、剣閃、いずれもB級剣士にふさわしい鋭いものだ。
有象無象はもちろん、C級の剣士であっても、その一撃で終わっていただろう。
しかし、相手は爆炎の魔法使い。
中央諸国における、魔法使い最強の一角として知られている。
同時に、その剣の腕も恐ろしく強力だと帝国では知られていた。
なにしろ、帝国で開かれる武闘大会で優勝したこともあるのだ……ほとんど剣だけで。
帝国中どころか、中央諸国中から腕自慢の剣士や槍士が集まってくる大会。
そんな大会で優勝したという話は、帝国人なら誰でも知っている。
そんなオスカー、確かに剣を握っているが、剣だけではなく魔法も使っていた。
<障壁>
<魔法障壁>と<物理障壁>を合わせた魔法。
相手の魔法攻撃も物理攻撃も、この一枚で防ぐ。
ただ、ある程度以上の魔法使いでなければ使いものにならない。
正直、あまり固くないのだ。
そう、あまり固くないはずなのだが……。
「ニルスの攻撃もアモンの攻撃も防いでいます」
「二人とも聖剣なのにな」
悔しそうに言う涼、それよりは冷静に指摘するアベル。
ニルスもアモンも、教皇庁から正式に譲られた聖剣で模擬戦を戦っている。
「嫌味なくらい、完璧な防御です」
涼ですら認めざるを得ない、オスカーの剣と<障壁>による防御。
二人のB級剣士を相手に、余裕をもってしのいでいるのが分かる。
両手で剣を構えたまま、突然空間に〈障壁〉が生まれてニルスとアモンの剣を弾く。
「あれは、やりにくい」
生粋の剣士であるアベルは、ニルスとアモンの立場に立って模擬戦を見ているようだ。
自分が戦った場合の困難さが手に取るように分かる……。
「絶対に割れない<障壁>を、無詠唱で高速連続生成。魔法使いとしては反則ですな」
苦笑するように言ったのは教皇グラハム。
「ヴァンパイアハンターと呼ばれた教皇から見ても、あれは反則か?」
「ええ、間違いなく。勇者パーティーでも、あれほど使いこなせる者はいませんでしたし……おそらく西方諸国全土を探しても、見つけるのは難しいでしょう。さすがは爆炎の魔法使い」
アベルの問いに頷くグラハム。
「昔、聖剣は、強力な魔法使いの<障壁>であっても易々と切り裂くと習ったんだが」
「ええ、聖剣の力を全て引き出せれば、その通りです」
「あの二人は、聖剣に認められたんだろう? だから教皇庁は聖剣を与えたと聞いたが」
「その通りです。ですが聖剣が主として認めるのと、聖剣の力を全て引き出せるのとは、また違うのです。主として認められることの、もう一段上と言いますか……」
「マジで聖剣ってのは、わがままだな」
アベルは小さく首を振った。
「攻撃を完璧に封じられ、反撃はそれなりに食らっています」
「『十号室』側は、この辺りで変化をつけたいな」
グラハムとアベルが小声で言葉を交わしている。
すぐ隣にいる涼は顔をしかめて無言のまま、模擬戦を見ている。
「〈聖なる鎧〉〈エンチャンテッドウエポン〉」
エトが唱える。
それによって、ニルスとアモンの鎧と剣が光った。
「ほぉ……エト殿は〈エンチャント〉が使えるようになったのですね」
教皇グラハムが感心したように頷く。
「エンチャント?」
涼ももちろん知っている。
勇者ローマンのパーティーにいたアッシュカーンが使っていたはずだ。
肉体を強化したり、武器や防具を強化したりする魔法。
しかし中央諸国にはない。
そのため、詠唱も開発されていない。
実は涼も後になって知ったのだが、西方諸国でも習得するのはかなり難しい魔法の一つらしい。
それを、エトが?
あれ?
アッシュカーンは風属性だったけど、エトは光属性……。
「エンチャントは、光属性魔法?」
「いえ、あれは無属性です。アッシュカーンが使うのは知っていると思いますが、私も〈聖なる鎧〉〈エンチャンテッドウエポン〉を使えます」
「なんですと!」
今明かされる衝撃の事実。
「かつてレオノールと名乗る人外と戦うことがありました。その際、ローマンにエンチャントして戦ってもらったのですが……全くかないませんでした」
グラハムは悔しそうに唇をかむ。
めったにないことだ。
特に、勇者パーティーから教皇庁に戻ってからは。
「アッシュカーンのように、エンチャントが使える魔法使いがいると、私たちの魔法も乗りがよくなるのです」
「乗り……」
まだまだ涼の知らない魔法の世界があるようだ。
「エンチャントで防御が上がったからか、さっきまでよりも深く切り込むようになったな」
「肩や腕で弾いての侵入です」
アベルも涼も、もちろん『十号室』側からの視点だ。
「爆炎が誘っているように見えます」
「ニルスも、それを分かっていて踏み込んでいるな」
「確かに、剣士は剣が届かなければ勝てません。ですが……」
涼が懸念を表明した次の瞬間。
踏み込んだニルスの、さらに下に潜り込むオスカー。
そこから剣の柄でニルスの顎をかち上げる。
さらに腹を蹴り飛ばす。
吹き飛ぶニルス。
「あれは痛い……」
「おのれ爆炎」
アベルが顔をしかめ、涼も顔をしかめる。
オスカーとアモンの一騎打ち。
オスカーは<障壁>を全て消して、剣戟が始まる。
「爆炎は剣だけでアモンと戦うつもりです」
「アモンの剣はかなりのものだろう?」
「ええ。もしかしたら、アベルよりも上かもしれません」
「……それはあんまり聞きたくなかったな」
涼の答えに、小さく首を振るアベル。
ここでアモンが負けたら、自分もオスカーに勝てないと言われたようなものだからだ。
「頑張れアモン、剣士が魔法使いに、剣で負けるなよ」
アベルの呟くような応援は、誰の耳にも届かなかった。
一進一退の戦いが続くアモンとオスカーの剣戟。
「リョウならどう倒す」
「決まっています。百億発の氷の槍で飽和攻撃&串刺しです」
「お、おう」
「奴を倒したあかつきには、串刺し公涼という恐怖の二つ名も、甘んじて受け入れましょう」
「うん、模擬戦だから殺すなよ」
アベルは一応、剣でどうやってオスカーを倒すかを聞いたつもりだったのだが……。
「剣で圧倒するのは簡単ではありません」
涼ですら認めるのだ、オスカーの剣の腕は。
「一撃必殺で、絶対に倒せる技なんて剣には無いでしょう?」
「ああ、無い」
涼の問いにアベルは頷く。
そう、そんな絶対に勝てる必殺技などないのだ。
力、速さ、技で上回れば勝つ。
力、速さ、技で下回れば負ける。
圧倒的な差がなければ、流れの中で勝敗が分かれる。
それが剣の戦い。
「アモンと爆炎は……」
「圧倒的な差はないな」
涼から見てもアベルから見ても、そう見える。
しかし同時に、どちらが優勢であるかも……。
「まるでアモンの剣は読まれているかのように……」
「ああ、剣の出所を封じられるな」
圧倒的な差はないが、オスカーの方が優位に立っているのが分かる。
それは読みの差。
読みの差とは、経験の差。
アモンが最も好み、得意とする剣、突き。
それに絡みつく<障壁>。
剣の動きを封じられたアモンの首に、オスカーが剣を当てた。
「参りました」
アモンは降参した。