水属性の魔法使い
「そういえば先ほど、なぜか浮遊大陸の名前まで出てきました」
「ああ。竜王、ヴァンパイア大公、ガーウィンよりはるかに強い魔人……はては浮遊大陸。確かに、この暗黒大陸は色んなものが入っているな」
「アベル、そこで『世界制覇の鍵は暗黒大陸にある! 我がナイトレイ王国が全土を占領し、世界制覇の足掛かりとしてやるわ!』とか言わないでくださいね」
「言うわけないだろうが! なんだ、その危ない国王像は」
涼の煽りを、アベルが拒否する。
「知ってますよ、アベルが爆炎とかその奥さんとかを暗黒大陸に連れ出したのは、混乱に乗じて命を絶つためでしょう? さすがは権謀術数王アベルです」
「しねーからな。絶対、やらねーから。そんなことをして、後でばれたら中央諸国が大変なことになるわ」
「なるほど、絶対ばれないようにすると」
「うん、絶対やらないと言っている!」
涼が悪い顔になって扇動し、アベルは再び拒否する。
もちろん涼も、アベルがそんなことは絶対にしないと分かっているから言っているのだ。
しばらくすると、合流した法国艦隊から責任者がやってきた。
つまり、教皇グラハムが。
「アベル陛下」
「ああ、教皇聖下にも心配をかけたみたいだな。申し訳ない」
スキーズブラズニル号が突然消え、その後、突然戻ってきたからだろう。
普通の事ではないと理解して、教皇自らが確認に来たのだ。
「強力な御仁に捕まってな」
アベルがそう言ってブランの方を見ると、ブランはすでにグラハムを見ていた。
しかも珍しいことに、大きく目を見開いている。
「これは珍しいな」
ブランがグラハムを見て小さいながらも驚きの声を上げる。
グラハムも、当然のようにブランが何者か理解する。
「リョウ殿の周りにいると、本当に飽きませんね。こちらの方は、恐らくあの……頂点の一角ですよね」
「さすがグラハムさん、分かりますか」
「なんとなくですが。実はその存在とお名前は、西方教会の歴史の中にも出てきます」
「なんですと!」
「……ブラン様と」
「おぉ」
グラハムが述べた固有名詞に、大きく目を見開き驚く涼。
「開祖ニュー様は交流があったとか」
その言葉が聞こえたのだろう。
「覚えておるぞ、ニュー。あの頃は……そう、楽しい時代であった」
ブランですら懐かしい表情になって微笑んでいる。
数十万年を生きる竜王の記憶の中ですら、鮮やかな記憶として残っている時間らしい。
「やはり……。文献の中だけの存在だった御方に、実際にこうしてお会いできるとは光栄の極み。本当に、私がこれまで会ってきた者たちとは一線を画す……匹敵する者がいるとしたらレオノールと名乗った者くらいでしょう。勇者ローマンを弄んだ彼女ですが、それすら超えるかと……」
「ええ、ええ、まさに」
グラハムの言葉に、何度も頷く涼。
そう、レオノールら悪魔と並ぶ最強種ドラゴンの、さらに頂点に位置する竜王の一人なのだ。
グラハムの認識は正しいと涼は思う。
「開祖ニューと呼ぶということは、お主は教会の人間か?」
「はい、ブラン様。第百一代の教皇の地位を賜りました、グラハムと申します」
「教皇? お主が? ほぉ……いや、しかし、これはこれは」
グラハムの自己紹介に、かなり驚いているように見える竜王ブラン。
さすがに竜王が自分に驚く理由が分からないのだろう。
グラハムが素直に問う。
「そこまで驚かれるのは……私は何か変でしょうか」
「我ら以外に気付く者などおるまいから、まあ驚かんであろうが……」
「はい?」
「何のことを言っているか、分からんか?」
「はい……申し訳ありませんが、分かりません」
グラハムは素直に答える。
「まさか存在するとは……。しかし、記憶を含めた一部に制限がかかっておるのか。それもまた、大した技術じゃ」
ブランのその呟きは小さすぎて、そこにいる誰の耳にも届かなかった。
その後も、グラハムとブランの間における開祖ニューをめぐる雑談が花開いた。
グラハムは西方教会中でもニューの研究に秀でた人物であり、心から敬愛しているからであろう。
教会の中での話を語ると、ブランは知らない情報だったのか、嬉しそうに聞いたのだ。
言うまでもなく、カラアゲパーティーの中で。
最後に、ブランが驚くべき提案をした。
「珍しい話を聞かせてもらった礼じゃ、大陸南部にまで送ってやろうか?」
「はい?」
「送らんでよいか?」
「艦隊全部を、転移してもらえるのですか?」
「うむ。その方が良くないか?」
ブランの提案。
涼は条件反射で頷きかけて、一応上司であるアベルを見る。
アベルはその視線を受けて頷き、同行者であるグラハムを見る。
グラハムはさらにその視線を受けて、アベルと涼に頷く。
全ての了承を受けて、涼は答えた。
「ブラン様、お願いします」