神籍のトワ
雨音が止まった気がした。
トワは段ボール箱の中を見つめたまま、
固まる。
「……え。」
箱の中の小さな生き物。
白い毛並み。
星みたいな瞳。
震える身体。
そして。
その存在から感じる、
どこか懐かしい魂の気配。
トワの肩の上では、
今までのユラも目を丸くしていた。
『……エ。』
箱の中の子も目を丸くする。
『……エ?』
数秒。
沈黙。
そして。
『エエエエエ!?』
『エエエエエ!?』
二匹同時に叫んだ。
レンが吹き出す。
「ははっ。」
トワは全く笑えない。
「な、なにこれ!?」
箱の中のユラ(仮)が、
慌てて箱から飛び出した。
ぽふっ。
地面へ着地。
そして。
今までのユラを見て固まる。
『ボク!?』
『ボク!?』
『ニセモノ!?』
『ソッチガ!?』
大混乱だった。
トワの頭も追いつかない。
レンだけが少し真面目な顔になる。
「……なるほど。」
「なるほどじゃない!」
トワが振り向く。
「説明して!」
レンは雨空を見上げる。
「多分だけど。」
「うん。」
「これ、
分裂した。」
トワが固まる。
「……何が。」
「ユラ。」
さらに沈黙。
「分裂?」
「うん。」
レンは二匹を見る。
「地下で無理やり力使っただろ。」
トワは思い出す。
黄泉列車。
金色の光。
消えかけたユラ。
「魂が安定してない状態で、
急成長した。」
レンは珍しく真面目だった。
「だから、
魂の一部が外へ零れた。」
トワが二匹を見る。
どちらも本物に見える。
どちらもユラだ。
『ボクガホンモノ!』
『ボクダヨ!』
『チガウ!』
『チガワナイ!』
喧嘩が始まった。
トワは頭を抱える。
「もう無理……。」
その時。
箱から出てきた方のユラが、
急に静かになった。
そして。
トワを見上げる。
『……トワ。』
少しだけ。
悲しそうな顔。
『ボク、
オボエテル。』
「何を?」
『サビシカッタ。』
トワの胸が痛む。
その言葉は。
どこか、
黄泉列車で聞いた声に似ていた。
レンの表情が変わる。
「……。」
箱ユラは続ける。
『ズット、
サガシテタ。』
トワの心臓が跳ねる。
ユラが?
何を?
誰を?
その時。
今までのユラも、
急に黙り込んだ。
そして小さく呟く。
『……ワスレテル。』
レンが目を細める。
「そういうことか。」
「何が分かったの?」
レンは少し迷う。
そして。
静かに言った。
「この子たち、
魂が割れたんじゃない。」
雨が静かに降る。
二匹のユラ。
トワ。
そしてレン。
誰も喋らない。
レンはゆっくり続けた。
「もともと、
二つだったんだ。」
トワの呼吸が止まる。
「……え?」
「君が作った最初の魂。」
レンは二匹を見る。
「最初から、
一つじゃなかった。」
その瞬間。
二匹のユラの身体が、
同時に淡く光った。
まるで。
何かを思い出そうとしているみたいに。
そして。
遠く。
池の向こう側で。
誰かがこちらを見ていた。
白い傘。
黒い着物。
顔は見えない。
だが。
トワだけは分かった。
黄泉列車の少女だった。
少女は静かに微笑む。
そして唇だけを動かした。
「まだ一人、いるよ。」
次の瞬間。
姿は雨の中へ溶けるように消えていた。
トワの背筋を、
冷たいものが走る。
ユラは一匹ではなかった。
二匹でもない。
――まだ一人いる。