神籍のトワ
《……興味深い》
その言葉が響いた瞬間。
高天原がざわめいた。
観測者が迷った。
それは。
太陽が昇るのを忘れるくらい。
ありえないことだった。
「まさか……。」
天之御影が呟く。
創世主も信じられない顔をしていた。
最上位存在は。
何億もの世界を管理してきた。
生まれた世界。
滅びた世界。
失敗した世界。
全てを見てきた。
だから。
迷わない。
それが絶対だった。
だが。
今。
その絶対が揺れている。
理由は。
神崎トワ。
「なんでだよ。」
レンが頭を抱える。
「だっておいしいじゃん。」
「そこじゃない。」
アマツが大笑いしている。
ヨルは壁にもたれて肩を震わせていた。
その光景を。
巨大な存在は黙って見ていた。
笑う。
という行為。
理解できない。
なのに。
なぜか視線が離せない。
すると。
最上位存在が再び問う。
《質問》
《なぜ悲しみを許容する》
トワは少し考えた。
「うーん。」
難しい質問だった。
でも。
答えはあった。
「悲しいのは嫌だよ。」
「苦しいし。」
「泣くし。」
最上位存在は聞いている。
「でも。」
トワは空を見る。
高天原の空。
光る天魂樹。
隣にいる仲間たち。
「悲しいってことは。」
「大事だったってことでしょ。」
静寂。
「失いたくなかったってこと。」
「好きだったってこと。」
「だから。」
「悲しいこと全部消したら。」
「好きも無くなる。」
その言葉に。
創世主が目を閉じた。
最初の人間。
あの少女も。
同じことを言った。
遥か昔。
最初の世界で。
最上位存在は黙り込む。
そして。
初めて。
誰にも聞こえないほど小さく呟いた。
《そうか》
その瞬間だった。
カグロが叫ぶ。
「騙されるな!!」
全員が振り向く。
観測者の欠片。
天津カグロ。
彼の身体は崩れ始めていた。
最上位存在が揺らいでいる。
それは。
彼の存在理由が揺らぐことだった。
「感情は欠陥だ!」
「愛はバグだ!」
「希望は異常だ!」
黒い力が膨れ上がる。
「だから世界は苦しむ!」
「だから終わらせるべきなんだ!」
観測者たちが共鳴する。
赤い瞳が輝く。
裂け目がさらに広がる。
創世主が叫ぶ。
「まずい!」
「観測者群が暴走する!」
最上位存在が揺らいだことで。
命令系統が乱れた。
観測者たちは。
自ら判断を始めている。
そして。
その中心にいるのは。
カグロだった。
「終わらせる!」
「全部!」
黒い光が爆発する。
天魂樹へ向かう。
核を破壊する気だ。
「させない!」
トワが飛び出す。
白金の翼が広がる。
レンも飛ぶ。
ヨルも。
アマツも。
四つの光。
希望。
境界。
夜。
神炎。
一直線に駆ける。
だが。
カグロは笑っていた。
「遅い。」
黒い槍が放たれる。
天魂樹の核へ。
間に合わない。
誰もがそう思った。
その時。
樹巫女が前へ出た。
「え。」
トワの顔が青ざめる。
少女は微笑んでいた。
「大丈夫です。」
静かな声。
「私は。」
「この樹ですから。」
白い光が溢れる。
樹巫女の身体が。
光へ変わり始める。
「待って!」
トワが叫ぶ。
だが。
少女は首を振った。
「ありがとう。」
「神籍の主。」
「あなたに会えて。」
「嬉しかった。」
そして。
樹巫女は光となり。
天魂樹の核へ溶けていった。
次の瞬間。
高天原全体が。
眩い光に包まれる。
だが。
その代償は。
あまりにも大きかった。
トワの叫びが。
高天原に響き渡る。