移動型万能店アジサシ
アオイから依頼された品、スキュシ鉱石とは第六大陸の一部で採掘出来る鉱石だ。
基本的に薬の材料になる事は無く、魔道具の材料であったり、魔法の杖の材料であったり、もしくはその美しさから装飾品に使われる鉱石である。
属性的には氷だ。取れる場所からしてもそりゃあそうな属性ではある。
第六大陸は大陸の一部に常冬の地を有する寒冷な土地で、これから向かう霊氷山はその常冬の地にある切り立った山だ。
人が立ち入るにはなかなか厳しい土地だが、アジサシ馬車には関係がない。何せ空からの侵入が常なので。
「さーて、それじゃあ……って、レウコスがもこもこになってる」
「寒いんだよ、もう既に」
「まだ第六大陸に入っても居ないのに……」
いつも着ている毛糸編みのカーディガンの上からさらに外套を羽織って、首元まで布で覆ったもこもこのレウコスを見てチグサは思わず自分の格好を確認した。
いつも通りのシャツの上に外套を羽織っただけのこれは、もしや場にそぐわないくらいに薄着だったりするだろうか。
「……セダム!」
「あー?どうした団長」
「よし!」
「何がだよ」
不安になったのでセダムを呼び付けて、まだ七分袖のシャツ一枚で過ごしているのを確認して一人で勝手に安心する。
あれはあれで薄着すぎやしないかと心配になるけれど、それもいつもの事なので特に何も言わないでおく。体調を崩しているところを見たことも無いので、寒くないんだろう。
「安心してないで上着着ろ。セダムももう一枚着ろ。そろそろ第六大陸だぞ」
「はーい。あ、そうだアンドレイ、冬服の買い替えとかは大丈夫かい?今回ペルーダにもレグホーンにも寄る予定はないけれど」
「俺は構わんが……確認してくる」
「お願いね」
アンドレイに釘を刺されたので各々個人クローゼットから上着を取り出して着込みつつ、一階に降りて寒そうにしているギーネの横に腰を下ろした。
確認している紙は店の在庫一覧のようだ。
「足りない物でもあったかい」
「急ぎの何かはないけど……第六大陸に来てるし、ズスの隠れ里とか寄っておいた方がいいかなって」
「なるほど。流星鱗もあるし、スキュシ鉱石も取ってくるしねぇ。寄って行こうか」
着々と決まって行く予定を脳内で整理しながら、窓の外に目を向ける。
第六大陸の奥の方、常冬の地の方から大陸に入っていく予定なので、第六大陸が近付いてきた時点でかなり冷え込んで来るのだ。
既にもこもこなレウコスだけでなく、他の団員たちも寒さを感じ始めた様子を見て、そろそろ陸が見えるか、と考える。
それと同時に空には雪がちらつき始め、チグサは第六大陸が近い事を悟った。
「今日も吹雪いているねぇ」
「はいはい、窓閉めるぞー」
「あぁ……見てたのに……仕方ない上に行くか」
見えてきた真っ白な陸地は、今日も今日とて悪天候だ。
ずっと吹雪いているわけではないけれど、晴れている日より荒れている日が多いのでいつも荒れている、という印象がある。
もしかしたらアジサシが第六大陸に来るときに毎回荒れているだけな可能性もある。
だとしたら何が原因なのかという話だが、原因になり得そうなものが多すぎるのでおそらく結論は出ないだろう。
誰かがこの地に嫌われているのかもしれないし、チグサが鑑定不能として在庫に積んでいる物の何かが原因なのかもしれない。
なんて、暇つぶしのように考えながら二階に上がって、そこの窓もしっかり閉められてしまっていたので見張り台に上がる。
その前にもう一枚上着を着こんで、寒さ対策はしっかりしておいた。
「あれ、団長!どうしたんですか?」
「窓を全部閉められてしまったからね、ここからじゃないと景色が見えないんだよ」
見張り台に居たコリンの横に並びつつ、吹雪く大地を見下ろす。
真っ白で何も見えはしないが、わざわざ見に来るくらいには好きな光景だ。
コリンもそれは分かっているようで、特に何も言わずに見張りを続けている。
その鼻の頭が真っ赤になっているのを見て、ふとコリンの格好に目がいった。
いつから見張り台に居るのかは分からないが、一度はアンドレイに上着を着ろと声を掛けられたはずだが……どうやらまだがっちり防寒をしているわけではなさそうだ。
「コリン、見張りはしておくからちゃんと防寒着を着ておいで。寒いだろうその恰好」
「寒い……かもしれない!?」
「はい、行ってらっしゃい」
「はーい!」
どうやら寒い事にも気付いていなかったようだが、まだ冷え込んできてからそう長い時間は経っていないので体調を崩すほどではないだろう。
見張り台から降りて行ったコリンがエリオットと何か話している声を聞きながら、引き受けると言った以上しっかりと周囲を見回しておく。
今ではチグサが見張り台に居ることもほとんどなくなったが、昔はしょっちゅう上がっていたので慣れた物だ。
そもそも外の景色を見たり風を感じたりするのが好きなので、アジサシの馬車がまだ小さかった頃は見張り台がチグサの定位置だった。
なんて、懐かしい事を思い返している間に馬車は大陸の周りをグルリと回って、常冬の地の右側に位置する霊氷山へと接近していくのだった。