移動型万能店アジサシ
一度は付近を通過したスレイプニルに戻ってきて、アジサシはひとまず店を開店させていた。
チグサはアンドレイと共にギルドに向かい、ドスギーバの目撃報告と討伐依頼の有無を調べてくることになっている。
店の方は他の面々がどうにかするだろうから、特に心配はない。
今回は特にギルドに売りに行くものもないので、身軽に馬車を降りてスレイプニルのギルドに向かう。
ギルドはどの国でも大通り沿いに建っているので、詳しい場所を覚えていなかったとしても行くのに苦労はしない。
「おぉ、混んでるねぇ」
「何かあったのかね」
「魔力が乱れてるのかもね。……お、気付かれた」
いつでも人の多い場所ではあるが、それにしても今日は混んでいる。
そんな中でのんびり話していたら、ギルドの職員がチグサたちに気付いて近付いてきた。
何かと関わりがあるからか、見つかると向こうから声をかけられることもままあることだ。
「こんにちは。本日はどうなさったんですか?」
「やぁ。用事としては、昼前にギーバの群れとドスギーバを見かけたから、発見報告と討伐依頼が出ているかの確認にね」
「ドスギーバですか……どのあたりで?」
「デルピューネに向かう方……アンドレイ、地図あるかい?」
「印付けておいた」
「ありがとう」
何度か話したことのあるギルド職員に奥へ案内されながら、アンドレイが持ち歩いている地図を使って群れを見つけた場所を報告しておく。
この人混みで察してはいたが、ここひと月ほど第一大陸は魔力が高まってきており魔物の出現が増えているらしい。
元々他に比べて明らかなほどに魔力の多い大陸だ、魔力が溜まりやすい場所も多く、魔力が溜まり過ぎるのもそれなりによくある事ではある。
そして魔力が溜まると魔物やら魔獣やらが生まれやすくなるので、第一大陸は現在全体的に忙しいらしい。
大陸の端、第二大陸との接続点あたりまで行けば多少弱まりもするだろうが、この辺りは魔力の濃度がかなり上がっているようだ。
そんな状態なので、普段なら群れが大きくなる前に討伐されるギーバも放置されてドスギーバが発生するまでになっている、と。
「討伐依頼が出ていないなら、こちらで倒した方がいいかな?」
「そうですね、今から依頼を出しても、何せあの状態なので」
「クエストボードに隙間がないね……」
「依頼状は用意しますので、お願いしてもよろしいですか?」
「もちろん。提出はデルピューネでかまわないね?」
「はい。第一大陸内であれば問題はないです」
面倒だからと一度は回避して逃げたが、依頼になったのであれば話は別だ。
仕事ならば真面目にやるとも。と返事をしつつ、書類を作りに行った職員を見送って、チグサはアンドレイを見上げた。
「今日は宿、明日移動して、群れの討伐と……移動まで出来るかどうか、だな」
「そうだね。細かいところは任せるよ」
「了解」
戦闘はコリンとエリオットに任せて、セダムには倒したものからすぐに解体に入ってもらった方がいいだろう。
他の動きもあれこれ考えている間に職員が書類を持って戻ってきたので、内容を確かめたらなくさないようにしっかりしまい込む。
「それじゃあ、またね」
「はい。お願いします、お気をつけて」
「そっちも過労で倒れないようにねー」
手を振ってギルドを出て、そのままちょっと町を見て回りつつアジサシ馬車まで戻る。
戻ってきてみたら、こちらもいつもよりすごい人混みだ。
第一大陸の魔力が高まっているから、冒険者たちが集まってきているのだろうか。
何かと面倒もあるが、冒険者たちからすれば稼ぎ時ということになるので、第一大陸の魔力が高まっているぞと情報が広がれば出張ってくる者も多いだろう。
なんて考えながら馬車に乗り込んで、二階に上がって小上がりで丸まっていたカタリナに声をかける。
「カタリナ、角ウサギを狩りつつ行くことになったから、群れの位置を確認しておいてくれるかい?」
「んぁー」
あまりやる気はなさそうな声だが、了承と取って一階に戻る。次はセダムを捕まえて、討伐していくことになったと伝えておいた。
エリオットとコリンにはアンドレイの方から伝達が行っているはず、と考えていたら、チグサの右手が誰かに捕まれる。
「団長、カウンター」
「……分かった分かった、分かったからほら、行きなさい」
あまりの混雑になんだか気迫があるギーネが腕を掴んで、店番を手伝えと言ってくるのでそれに従ってカウンターに近付いた。
時々久しぶりだなと声をかけてくる顔見知りとちょっと会話をしたりもしつつ、夕方までしっかり店番をしてヘロヘロになりながら宿に入った。
そのまま寝てしまいたい衝動をぐっとこらえて全員に改めて次の予定、角ウサギの群れとドスギーバの討伐について伝え、明日の朝に出発する旨も伝達しておく。
そこまでやったらあとは各自解散、ゆっくり休んで明日に備えろの時間になるので、チグサもお風呂に入って寝支度を整えた。
「そういえば、アンドレイはどこか行ってたのかい?」
「サシャと買い出し。角ウサギの肉を保存用にするなら材料も量がいるだろうって」
「あぁ、なるほど」
加工の準備も進めてくれていたのなら、狩った分はすべて回収して積んでいけそうだ。
その他の事は……まぁ、明日考えればいいだろう。チグサは、既に眠くて仕方がないのですべてを明日に回して寝ることにした。