移動型万能店アジサシ
工房の入口に立って声を掛けられそうな人を探していたら、職人の一人が気付いて駆け寄ってきた。
どうやら覚えられていたようだ、なんて思いつつ手を振って、チグサはとりあえずにっこりわらった。営業スマイルというやつだ。
「団長さん!お久しぶりですどうしたんですか?」
「やあ、久しぶり。ちょっと剣の作成を依頼したくてね。手は空いてるかい?」
「親方呼んできますね!奥へどうぞ!」
促されて工房の奥に移動しつつ、掛けられる声に返事をしていく。
この工房とはちょっとした縁があり、何度か世話になっているのだ。
アジサシは移動型万能店として売り買い以外の依頼を受けることもあるので、こういうちょっとした縁が世界のあちこちに転がっている。
「おう、久しぶりだな嬢ちゃん」
「元気そうで何よりだよ親方。今は忙しいかい?」
「そうでもねぇよ。細々依頼は来るが、大抵は好きに作っとる」
案内された椅子に腰かけて少し待つと、工房の親方がやってきた。
一緒に弟子らしい少年がお茶を持ってきてくれたので、お礼を言って口をつける。
見たことのない子なので、立ち寄っていなかった数年の間に新しく取った弟子なのだろう。
「で、何を作りてんだ?」
「この子の剣を新調したくてね。特殊な効果はいらないから、丈夫で長く使える質のいい剣にしてほしい」
「そうけ。んなら、長さと重さ、それからバランス決めて、その後材料の相談だな」
流石は親方話が早い、とにっこり笑って、チグサはエリオットとコリンを促して各種必要な情報の確認に行かせる。
ここからでもその様子は見えるので、エリオットに持っていてもらった荷物の見張り番がてらに眺めていたら、一人の青年が近付いてきた。
「おや、久しぶりだね」
「……俺の事覚えてんすか」
「うん。正確に何年前かは忘れたけど、一時でも乗せた子だからね。元気?」
「おかげさまで」
お茶のおかわりと茶請けを持ってきた青年に見覚えがあったので声を掛けたら、驚いた顔をされた。
それでも暇つぶしのおしゃべりには付き合ってくれるようで、促したら素直に正面の椅子に腰を下ろしたので、にっこり笑って青年を観察する。
視線をしっかり向けてじぃっと観察すれば、鑑定眼が詳しい情報を引っ張り出してきた。
なるほどそうか、八年前か。八年前となると、コリンがアジサシに加わるよりも前だ。道理で大きくなっているわけである。
「その後、どうだい」
「良くしてもらってます。少しずつ仕事も任せてもらってるし、弟弟子も出来たし」
「そうかい。……君が作った剣、今持ってこれる?」
びくりと肩を揺らした後、青年は神妙な面持ちで頷いて席を立った。
……なにやら必要以上に緊張させた気もするが、気にしないでおこう。チグサはアジサシの団長をやっているので、職人の卵たちから怯えられるのにも慣れている。
あの青年は、八年ほど前にチグサがこの工房に連れてきた。
とある村でアジサシに入れてくれ、と言ってきたのをきっかけに、アジサシには乗せなかったが武器鍛冶をしたいのだというのでここに連れてきて、親方に預けたのだ。
アジサシには、様々な理由で乗せてくれと言ってくる人がいる。
それがアジサシに団員として加わりたいという意味であれば基本的に乗せないが、一時的な身元預かりや単純に移動目的であれば、乗せることもあるのだ。
最近はそれもないが……なんて考えていると、何かしら拾うことになるんだよな、とぼんやり考えてお茶を飲む。
コリンの方は順調に欲しい剣の情報が集まってきているようだ、と何やら賑やかにやっている方を見ていたら、青年が何かを持って戻ってきた。
「短剣かい?」
「……これが、一番上等に作れました」
「なるほどね」
緊張の面持ちで差し出された短剣を受け取って、じっくりと眺める。
重さ、握り心地、振りやすさなどの、持って体感できる部分の確認を終えたら、鑑定眼で他の細かい情報を拾っていく。
「……うん、いいね。飾り気はないけれど、丈夫で使いやすい。ただ、研ぎが甘いね」
「親方にも言われます」
「向上心はあるようで何より」
言いつつ短剣を返す。返された短剣を受け取って、青年は少しだけほっとしたような顔をした。
ほっとしたのはチグサの方も同じだ。青年がこのまま育ってくれれば、親方が引退した後もこの工房との縁は続けられるだろう。
「次に来る時を楽しみにしているよ。出来れば鞘もあると、仕入れがしやすい」
「分かりました、精進します」
頭を下げて去っていった青年に手を振って、コリンたちの方に視線を戻したら各種確認が終わったのか、ちょうどこちらに戻ってくるところだった。
はしゃぐコリンを宥めつつ話を聞くと、作る剣の重さや長さ、バランスは決まったので後は素材を選らぶだけらしい。
「嬢ちゃん、なんか使いたい素材はあるか?」
「コリンの希望で良いけれど、何かあるかい?」
「団長に任せます!」
「あぁ、なるほど」
コリンがチグサに丸投げするから、その相談のためにこちらに戻ってきたのだろう。
エリオットもチグサに任せる方針らしいので、使えそうなものを脳内で並べて、何がいいだろうかと考える。
「……あぁ、そういえば、ロゼグレストの素材が馬車に積んであったね。あれを使おうか」
ちょうどいい物が長らく在庫として積まれていることを思い出したので、声に出す。
親方からも頷かれたので、特殊素材はこれで確定だ。となれば、アジサシ馬車から持ってこないと。
というわけで、工房を出てアジサシ馬車に戻ることにした。仕入れも出来たし、剣の素材も決まった。進捗としては上々だろう。