移動型万能店アジサシ
ガルダを後にしたアジサシは、続いて第三大陸の中を巡りつつ第四大陸へ向かっていた。
今回は陸路での移動でゆったりと村々を巡りながら移動してきたのだけれど、第四大陸へと続く関所でなにやら問題があったらしく、人だかりを見つけて足を止めていた。
「なんだろうね」
「聞いてくるか?」
「お願い。カタリナ、一応離脱の準備をしておいてくれるかい?」
「あいー」
アンドレイが関所へと様子を見に行ってくれたので、その間に馬車の向きを微調整しておく。
何かあればアンドレイを引っ張り上げて即離脱の構えだ。アジサシは道中戦闘を行うこともあるが、それに特化した集団ではない。面倒ごとには関わらない方がいいのである。
というわけで見張り台に上がって様子を見ていたチグサは、関所の門番と何やら話し合っているアンドレイを望遠鏡越しに眺めていた。
ちなみにすべての大陸間に設けられているこの関所だが、管理はギルドが行っている。どこの国の事情にも左右されずに運営するためである。
関所の役目は主に人の移動の監視と、捕縛指示の出ている人間の移動制限と捕縛だ。細々したところでは他にもあるが、まあそれは一旦置いておく。
ともかく、こうして関所前に人が集まっているということは、現在関所は通行止めだということだ。
「第四大陸でなんかあったかね」
「まあ、起こりがちではあるけれどね……さて、どうなったかな」
どうやらアンドレイの方も話を聞き終わったようだ。すぐに出発する、という感じでもないので、そのまま見張り台で歩いてくるアンドレイを見守る。
そうして待っていたら手振りで呼ばれたので、望遠鏡を見張り台のフックにひっかけて下に降りた。
「なんだった?」
「迷いの森で魔力の異常増加が発生して、魔物が大量に湧いてるらしい。安全のため関所は封鎖、ギルドから依頼を受けた一部冒険者だけ通行の状態だそうだ」
「なるほどねぇ……長引きそうかい?」
「多分な。討伐しきって魔力量がもとに戻るまでは閉めてるだろ」
「うーん……となるとどうしようねぇ」
アジサシは別に関所を通らなくても移動は出来るが、それをするとどうやって大陸に入ったのかを問われた時に面倒だ。
普段は気にされなくても、こうして関所が閉じられていれば当然移動方法はいつもよりも気にされる。
第四大陸の知り合いたちは皆魔物の大量発生程度で揺らぐ存在ではないので心配はいらないし、どうしても駆けつけないといけない場所もない。
というわけで、次の行先を変更することになった。
「第二大陸はあんまり行きたくないだろ。どうすんだ?」
「またしばらく第三大陸回る?」
「そうだねぇ……そろそろ第三大陸は雨期に入るし、それまで巡ってみるのもいいかもしれないけれど……」
「じゃあとりあえずゾタ漁村」
「いいよ」
集まって話していれば、すぐに次の行先は決まった。
第三大陸を巡って戻ってくるころには関所も開いているだろう。それまでのんびり村を巡るなり、どこかで休息を取るなりすればいい。
そんなわけで関所を離れ、再び第三大陸の内陸へと向かう。
目的地が決まれば後はいつも通り、移動中の馬車の中では各自好きに過ごすことになるのだけれど、チグサは二階に上がる前にサシャに呼び止められた。
「どうしたんだい?」
「ゾタ漁村に行ったらカタちゃんお魚買って出ないと満足しないと思うんだけど、食料の在庫が結構あって。これ以上増やすと場所圧迫しすぎるかな?」
「うーん……多少ならギーネが積み込んでくれるだろうけれど……心配なら、どこかで食料の売り出しもしようか。エーシャの隠れ里なら食料も売れるだろう」
「オッケー、じゃあほどほどに買っちゃうね」
次の目的地を決めたのもカタリナだ、当然村では魚を食べるし、買って出ないと納得しないだろう。
買って行かない場合、無言で次の行先を別の漁村にしかねない。御者の機嫌を損ねてはいけない、というのは、アジサシがまだこの馬車を使い始める前から言われていることだ。
何なら野菜などの食料をゾタ漁村で売ってその分魚を仕入れる、というのもアリだろう。
まあ、売れるかどうかは行ってみないと分からないけれど。なんて考えながら二階に上がって窓の外を眺めて過ごすことにした。
一階は相変わらずレウコスの工房と化しているので、馬車の二階には人が多い。
なので一階の屋根に出ようと思ったら、アンドレイに首根っこを掴まれて止められた。振り返ってアンドレイを見上げると、随分呆れた顔をしている。
「なんだい」
「関所が通れなくて人通りが多いんだ、外で寝ようとするな」
「これから離れるんだから良いだろう?それに私が屋根の上で寝てるのなんて、割といつもの事なんだし」
「それが問題なんだよ」
やいやい言い合ってみたけれど、チグサを物理的に止められるアンドレイが有利である。これはもう納得しないな、と諦めてため息を吐いてみれば、ようやく首根っこを掴んでいた手が離された。
仕方がないので屋根ではなく見張り台に出ることにしてはしごを登り、既にいたコリンの隣に並んだ。
向かう先が漁村なので、馬車の速度はいつもよりも少し早い。
この分ならもうすぐ潮の香りが漂ってくるだろうな、なんて考えながら、ぼんやりと遠くを眺める。
見張り台では寝れないので、やることと言ったら遠くを眺めるかコリンと喋るかくらいなものなのだ。