徒然とはいかない喫茶いしかわの日常
○月×日 くもり
今日のゆかりさんは少し元気がないようだ。看板娘にふさわしい笑顔にいまいちキレがない。
どうかしましたか、と尋ねたらゆかりさんはふぅっと悩ましげなため息をついた。
「ラッキーリターンってそろそろ法的に取り締まられるんじゃないですかね……」
言葉の意図を取りかねて、一瞬笑顔が固まった。
ラッキーリターン。キャンディーのように個々に包装された煎餅。
もちろん、法律で取り締まるような原材料が使われているわけではない。が、スナック菓子のように食欲増進する添加物が入っているため、つい次々に手が伸びてしまうという罠がある。
「……昨夜一袋開けたんですね?」
「さ、さすがの名推理……!」
目をまんまるにさせて感嘆の声を上げたゆかりさんに、僕はニッコリと笑みを返す。
「これでも観察眼はあるほうですから」
推理でも何でもないけれど、とりあえずそう格好つけておいた。
最近、ゆかりさんの思考パターンを読めるようになってきたことに、微妙に危機感を覚えてしまう。
こんな翻訳機能はゆかりさんとの意思の疎通の他に、なんの役にも立たないだろう。