徒然とはいかない喫茶いしかわの日常
休日の今日。
午前中に家事や所用を済ませた昼食後のまったりタイム。ソファで新聞に目を通していた和樹に楽しそうなゆかりがそそ……と近付いてくる。
「かーずきさぁん」
「どうしました?」
「トリック・オア・ポッキー!」
「ん? えっと……?」
和樹は思わず脳内でハロウィンはしばらく前に終わったよな……と思い返す。
「あのね、今日はポッキーの日だから、もしかしたら和樹さんならポッキー用意してるかなと思ったの。でもぉ」
ワクワクを隠さず和樹にずいっと顔を近付ける。
「ポッキーないならイタズラしちゃいますよ?」
ああ、なるほど、そういうことか。
和樹はにやりとして面白がる。
「いいですよ。ポッキー出さなければゆかりさんからイチャついてくれるなんて、いやぁ楽しみだなぁ」
「イチャついてじゃなくてイタズラです〜ぅ」
「はは。実は今朝出掛けたのはゆかりさんが食べたいって言ってた限定アップルパイを買うためだったんですが……」
「えっ! 限定アップルパイって、まさかあの大人気パティスリーの……」
和樹はいかにもと言うように大きく頷く。
「そうですよ。一日五個限定かつ購入券が抽選のアレです。ようやく購入予約できたので買ってきたんですが……」
はわわわ……とゆかりに動揺と期待が広がる。
「でもゆかりさんはポッキーが食べたいんですよね? 仕方ありませんからアップルパイは僕が二人分食べて、甘んじてゆかりさんにイタズラされることにしましょう」
にっこりと和樹がそう告げるとゆかりは大慌てだ。
「そんなぁ! 和樹さんがイジワルです。わたしがどんなに食べたいかあんなに伝えていたのに、ひどいですよぉ!」
「はははは。ほら、あれですよ。好きな子にはイジワルしたくなるっていう」
「そういうお約束展開はいりませんっ!」
拗ねてウルウルして、和樹の腕の中に飛び込んで。顔を埋めてひどいひどいと言いながらポカポカと和樹の胸を叩くゆかり。和樹はゆかりの腰を抱きしめながら「何この可愛いいきもの」という一言で頭がいっぱいになる。顔が脂下がっていくのが止められない。
「そんなに食べたいの?」
和樹がゆかりの耳元でとびきり甘く囁くと、和樹に抱きつき顔を伏せたままコクリと頷くゆかり。
「なら、おやつの時間にあーんで食べさせてあげる。アップルパイにはコーヒーよりダージリンが合いそうだよね」
「やったぁ! 和樹さん大好きです!」
パッと顔を上げるとぱあっと笑顔になり、そのまま伸び上がり和樹の頬にチュッとリップ音を立ててキスを贈ったゆかりはそのまま身体を起こすと、半月ほど前に和樹に贈られたスカートをひらりと翻しスキップするかのように移動する。
「おやつの前に洗濯物取り込んできますね」
ゴキゲンに鼻歌を歌いながらベランダに出ようとするゆかりを追いかけるべく和樹は身を起こす。
今年はポッキーではなく小枝を用意して、キスの時間と回数を増やすことを目論みながら。