徒然とはいかない喫茶いしかわの日常
ゆかりがアイロン掛けしていると、子供たちが部屋の入り口からちらちらと覗き込みながら、コソコソと話している。
「やっぱりそうだってば」
「ええっ、違うよぉ」
くすくすと楽しそうだ。
ゆかりは使い終わったアイロンのスイッチを切り片付けてから子供たちに声をかける。
「真弓ちゃんも進くんもとっても楽しそうね。なんの話をしてたのかな?」
近寄ってきて、ゆかりにぎゅっと抱き着いてから、正面にべたりと座る。
「あのね。うちって、亭主関白? それともかかあ天下?」
「え!?」
一体なぜそんな話になったのか。
「あのね、借りてた本を読んでてね、亭主関白って読めなかったから、先生に聞いたの」
「そしたら、亭主関白はお父さんが強くて何でも自分が思った通りに決めちゃうお家のことなんだって。逆にお母さんが強くて尻に敷いてたらかかあ天下だって言われたの」
「おともだちとね、うちはどっちかなーって話をしてたの」
「サクラちゃんのお家は亭主関白なんだって」
「酒屋のお兄ちゃんは、母ちゃんがしょっちゅう親父を叱り飛ばしてるからかかあ天下だなって言ってたよ」
「それでね、うちはどっちかなって」
「真弓はね、亭主関白だと思うの」
「ぼくも! お母さんはいっぱい怒って怖くはないもん」
「亭主関白か、かかあ天下か、ねぇ。うーん。わたしはかかあ天下のつもりはないし、強いて言うなら亭主関白になるんじゃないかしら」
代わる代わる説明してくれる真弓と進の話をふむふむと聞いた後、こてりと首を傾げながら答えてくれた。
「やっぱりそうだよね」
進は納得した。
「お父さん、偉そうだもんね」
ウンウンと何度も首を縦に振りながら真弓も答える。
「偉そうって……お父さんは偉そうじゃなくて偉いのよ。部下の人たくさんいるし、うんとお仕事頑張ってわたしたちの暮らしを支えてくれているの。素敵なお家に住んで、可愛い服着て、美味しいお食事やお菓子を毎日しっかり食べられるでしょ。それってとても大変なことなのよ」
「はぁい」
でもあんなに態度が大きくて偉そうなのに……という表情を滲ませながら、子供たちも返事をした。
その日の夕食の席で和樹にもその話をすると、あっさりと答えを出す。
「ふむ。その基準に則るなら我が家はかかあ天下だな」
「「「ええぇっ」」」
「だって、ほら」
和樹がぐいっとゆかりの手を引き、膝の上に乗せ、ギュッと抱きしめる。
「ふぇっ。いきなり何を……」
「だって、心身ともにゆかりさんの尻に敷かれるのは僕の趣味……いえ、生き甲斐ですから」
「えぇぇぇ……満面の笑みとドヤ顔で言うことじゃないと思う」
ゆかりに密着してうっとりしながら言い放つ和樹に、仰け反って引きながらゆかりがボソリと反論する。
「ゆかりさん、ぜひこれからも僕を尻に敷いてくださいね」
何とか逃れようとするゆかりをがっちりホールドし、すりすりしながら言う和樹に、色々と手遅れすぎて助けられないことを悟った子供たちだった。