異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
眠ってしまっていたらしく、はっと目が覚めた。もとの世界に戻れるとして、今すぐそれをやれるのか、ということを考えていた気がする。結論は、出来ない、だ。
こつんともう一度窓が鳴る。なんだろう?
窓へ近付いてった。両手で開け放つ。星がめったやたらときらきらしていた。
星、多いなあ、とぼんやり眺めていると、目の前をなにかが落ちていった。
右手をすばやく突き出して、掴みとる。ふわっとした障り心地、こ、これは。
窓から身をのりだし、上を見た。「マオ」
「……ほーじくん」
ほーじくんが、羽をわさわささせて、滞空していた。
すーっと降りてくる。
「こんばんは」
「うん。……ほーじくん」
「お別れ、云いに来た」
ぎくりとした。
思わず手を伸ばし、ほーじくんの袖をひっ掴む。「這入って」声が震えていた。ほーじくんも居なくなるんだと思うと、内臓が痛い。
ほーじくんは頷いて、ひょいと窓から這入ってきた。俺の目の前に立って、目を伏せる。
「ごめん、マオ」
「え?」
「マオ、連れて帰りたいって、云ったけど。……だめだった」
「あ……そっか。ほ、ほーじくん、大胆なこと、云うね」
ほーじくんは俺を抱きしめる。ふんわり軽く、羽で包まれた。「マオ……」
室内はくらい。窓からさし込む星明かりが、ほーじくんの羽を照らしている。ほーじくんの羽は、真珠みたいな綺麗に濁った色だった。
「どうして俺の部屋だって解ったの」
「マオが居る感じがするの、この部屋だったから」
「……そう」
魔を関知した、のかな。ほーじくんは、善なる魂を持っているから。
だからこの子は俺の天敵の筈なのに、どうしてこう。
いいなと思うんだろう。
いいなって。
仲好くなりたいなって。
混乱している。自分が何をしたいのか、よく解らない。でも、ほーじくんの腰に両手をまわした。誰も居ない、星明かりだけのくらい部屋で、未成年と密着してる。完全に拙い。
でも、やめようとは思わなかった。
「マオ?」
「うん」
「僕……マオのこと、本当に、好き」
ほーじくんは不安そうに、俺をぎゅっとした。「マオ、来年まで会えなくても、僕のこと覚えててくれる?」
「覚えてるよ」咎めるような口調になった。「なに、云ってるの?忘れる訳ない。だって」
言葉をのみこむ。云ってはいけないことだ。俺は魔王だから、ほーじくんとは絶対に釣り合わない。
ほーじくんは低声で、何度も、好きだよと云ってくれた。
「淋しいな」
「また会えるよ。絶対。下山したら、迎えに来る」
ほーじくんは俺の頬を両手ではさむ。「そうしたら、結婚して」
空手形はよくないし、約束を破るのは最低だ。なのに俺は断れなかった。
断らなかった。
ほーじくんは帰って行った。もうすぐにレントを発つと云って。
「……またね」
嘘にならないといいな。
そう思った。嘘ばかりなのに。