異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
ちょっと自分に絶望したが、だからと云ってお腹はくちくならない。おかわり自由のパンをおかわりした。重曹の具合が丁度いい。おいしい。これくらいうまくパン焼けるようになりたい。
ハーバラムさんが手を合わせた。
「マオー、ごめんねえ。わたしの手おちだよ。時期を覚えてたらあの店にはいかなかったのに」
この世界でも謝罪の意を表す時はこのハンドサインなのか。
パンをもさもさ噛みながら、だいじょぶですよー、と返す。喧嘩を始めたのはハーバラムさんではないし、食事は無事再開できたからいい。
とはいえ、またあんな騒ぎに巻き込まれたらいやだ。
「ああいう喧嘩って、よくあるんですか?」
「よくはないね」
ハーバラムさんがそう云い、ダストくんがテーブルへ頬杖をついた。
「三国が張り合ってるのは解るか?」
頷く。
ダストくんも頷いた。「もともと同じ国だったくせに、今となっちゃ暮らしかたもなにも違う。服装は気候に合わせて調節するから目立たないけど、くいものは別だろ。それで喧嘩になることはある」
ほう。
たしかに、土地が違えば食べるものはかわる。でも、ひとがなにを食べていたって、人肉とかじゃない限りは文句を付けなくっていいと思うのだが(もし人肉を食べていたら、こわくて逃げるし)。
でも、宗教的な理由があって、喧嘩が起こるそうだ。
この世界の宗教では、基本的にお酒はだめ。
あと、お肉は、きちんとした手順を踏んで処理されたものじゃないとだめ。豚の飼育は禁止。
二枚貝は神さまへの捧げものなので人間が食べるのはだめ。体表に斑点のある魚も捧げものなので食べるの禁止。鱗・えら・ひれのない魚介類(二枚貝除く)は加熱しないと食べたらだめ。
じゃあ、軍服っぽいひと達は教義違反じゃん。
と思ったが、ああいうお店では「還元したお酒」を提供している。
お酒を還元して、光の粒になったのをかき集めておくと、量や品質は変わるがお酒に戻る。それは、所謂「酒」ではない、と云い抜けているのだ。
ついでに、豚も、飼育が禁止なのであって食べるのは自由。狩ってきた豚ならいいのである。
飼育禁止の理由は、豚は穀物を食べるから。動物に食べさせる余裕があったら人間が食べよう!ということらしい。この世界が拓けて間もなくは食糧環境も厳しかったみたいだし、納得できなくもない理由だ。となると、魚介類加熱ルールも、食中毒の予防目的だろうな。