異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
借金とりは帰っていった。片方はなんだかやけに怯えた様子で。
その後ろ姿が見えなくなると、セロベルさんがどさっと座り込んだ。
「大丈夫ですか? お茶淹れましょうか」
「おまえ。……割りと度胸あるな。それくらいじゃなきゃできねえか」
まだ勘違い継続中らしい。まあいいけど。否定しても無駄だし。
「あのひとたちって?」
「ばばあが金借りてる相手の部下。あいつらはもともと魔物退治で鳴らしてた傭兵だ。強かったんだと」
「そのわりにはしょぼかったですけど」
本職ではないんだろうなあ。片足つっこんでるだけ。脅しのスキルがない。なーんにもこわくなかった。気迫も威圧感もなかったもの。
きいとかすかな音がした。振り向く。
リエナさんだ。足許に籐かごを落としている。顔色が悪い。
「どうも」会釈した。「マオです。宜しく」
「よ、宜しくって……」
台所は……あっちのほうから調味料の気配がする!
カウンタの奥へ這入った。アーチの向こうが厨房だ。奥にさらにアーチがあって、向こうは廊下だった。
かまどと、薪オーブンと、でっかい調理台。なんでもつくれるじゃん。
みずがめはあるが空だった。そうだよな。知ってたよ。
扉があったのであけてみると、中庭へ通じている。井戸発見!
水を汲み上げた。……だめだ、濁ってる。
汲んでは捨て、汲んでは捨てしていると、少しづつ綺麗になってきた。もう少し。
「あの」
振り返る。リエナさんがもじもじしていた。「はい」
「……さっきは悪かったわ。いきなり怒鳴ったりして、ごめんね」
ああ、借金とりのいやがらせだと思ったみたいだし、不可抗力だ。謝ってくれてるしいい。
「だいじょぶですよー」
「そう? ……ありがと。あなた凄いわね。あいつらに怯まないで」
ひるむ?あの、子どもみたいなのに?
はははと笑った。リエナさんって面白いひとだなあ。
リエナさんはきょとんとしてから、目をぱちぱちさせる。
「あ……あら? なにしてるの?」
「水汲みです。おれ、水出せないので」
気の毒そうな顔をされた。「そう。それで……苦労したのね」
??
リエナさんは優しくて、水を出してくれた。厨房には戸棚に仕舞い込まれた綺麗な片手鍋。お茶の葉もその奥にあった。
紅茶だと思う。簡単に煮だして、マグへ注ぐ。リエナさんは自分のお店へ帰ってしまったので、セロベルさんの分と自分の分。
「ありがとな」
セロベルさんはお茶をすすり、またしても欠伸をする。「ああ、畜生。眠い」