異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
「ゆ。ゆびとれてへいきなの」
「平気な訳ないだろ」
ダストくんはそう云いながらもくすっと笑う。機嫌は持ちなおしたらしい。「だから、癒し手がとんできて、すぐにくっつけてくれるんだよ。癒し手っつっても、生徒がほとんどだから、裏表間違われたりしてもっかい切らなきゃいけなくなったり、ではよくある話だぞ」
ひいいいい痛そう! こわい!
ダストくんは苦笑で、右手の親指を見せてくれた。実技ですぱんと落とされたらしい。
「こう、ななめにな」
「うへえ」
「でも跡はないだろ。傷の範囲がせまかったし、すぐに処置してもらえたから、機能も損なってない。後遺症もなし」
ダストくんは手を下ろした。
「癒し手がすぐ傍に居て、治してくれたからこそだけどな。癒し手はめずらしいから、でもなきゃそんなぜいたくは無理」
「い、癒し手が居なくて、指が……」
最後まで云えなかった。しかしダストくんは察してくれる。「傷口を縛って、落ちちまった指を拾って、収納空間へいれて、癒し手のいるところまで頑張って走る。できたら時間停滞の収納空間な」
「はっ、走るって」
「それがはやいじゃん」
絶対そんなことになりませんように。痛いの大嫌い!
「四月の雨」亭へ着いた。ハーバラムさんは門を仰ぐ。
「なつかしい。商人になりたての頃、協会の先輩に連れてきてもらってさ。料理頭なんて、世にも稀な職業のひとがやってるってんで、わくわくしたねえ」
あ、やっぱり職業なんだ。
ダストくんが前庭を覗き込む、しかめ面だ。「うわ、雑草だらけだな。ほんとに潰れてんじゃねえの?」
「だいじょうぶだよ。ハーバラムさん、その時は、おいしかったんですかお料理」
「もーう。絶品だったよお。しかもお安くてさ。お腹いっぱい食べられて、ふたりで銀貨3・4枚くらいだったかな? あの量と味だったら、ほかのところで食べたら銀貨10枚はとられてたろうね。そのあとも何回か行ったけど、ひとりなら銀貨2枚と少しで充分ぜいたくな気分になれたよ」
えー、そうだったんだ。食べてみたかった。
ダストくんが鼻に皺を寄せた。
「でもその料理頭はもう居ないんだろ? じゃ、だめだろ。こんな雑草だらけの前庭に、ぼろぼろの門と、あのぼろっちいおもやだぜ? 誰が泊まるんだよ」
それは一理ある。
ここだって昔は繁昌していたらしい。今でもなんとかなるのでは。