異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
「ああ、まあ、色々とあってな」
セロベルさんは困ったようにそう云って、マグを干した。
セロベルさんの職業は「護衛士」。適職のめずらしさと体力の高さで入山したのが六年前。学生課程を終了後、そのまま実技の補助指導員になった。
四月の雨亭は、セロベルさんのお父さんの家が代々やってきた宿で、創業数百年の老舗。セロベルさんはで教員になるのを目指していたから、宿の手伝いはほとんどしていなかった。
両親とは、補助指導員になってからはたまに手紙でやりとりするくらいで、それも次第に間遠になった。
下山したのは、一年くらい前。借金の督促が来たからだった。
「帰ってみたら、このありさまだ」
セロベルさんは、がらんとした食堂内を示す。「ひとっこひとり居ねえ。お客も、従業員もだ。庭は雑草だらけ。厩はぼろぼろ。極めつけが、死にかけの親父と、看病を続けて体を壊しちまった母親」
ダストくんが口をへの字にしていた。マグを握りしめる手が白い。
「……借金って」
「癒し手を呼ぶのに金が要る。最初は、簡単な病だと思ったんだろ。親父が働けばすぐに返済の見通しが立つ。でも、癒し手に治してもらっても、親父はすぐに動けなくなった。寿命だよ。諦めきれなかったばばあがばかなんだ。俺に頼ったら迷惑だなんてくそみてえなことまで云いやがって。さっさと頼ってくれたらよかった。そうしたらこんな泥沼にはならなかったんだよ」
セロベルさんの口調は強い。
言葉は母親を責めている。でも表情で、本当に責めているのは自分だと解った。にいて、父親の病気に気付かず、頼ってももらえなかった自分を、情けなく感じているのだ。
「でも」ダストくんが低く云う。「だったら、親族とか。それに……」
「ダスト坊。ここは村とは違うよ」
ハーバラムさんが優しい声を出す。「村だったら、みんなが助けてくれる。それは、病になったひとも、怪我をしたひとも、ぼけちまったひとだって、村の一員としてそれまでやってきたからだ。なんにもしていないようでも大事な構成員だからだよ。レントは違う。究極、隣に住んでるひとが死んだって、自分は困らないからね」
村に居た時、奥さん達のお喋りを聴いた。どこの家のひとがぼけてしまったから、みんなでサポートしよう、みたいなことを話していたっけ。
村は、荒れ地近くで環境が厳しい。今見捨てれば、次は自分が見捨てられる。だから、成る丈見捨てない。そういうことだろう。