異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
ふんふん鼻歌をかなでつつ、クッキー生地をつくる。
今度は、たまごはなしで、お水を増やす。バターがないからそもそも正統派ではないしね。
油は、さっきは植物油だったが、今朝市場で買ったばかりのラードをつかってみる。第二の丘でとれた豚(猪なんだろうなあ)からとったラードらしい。
粉は小麦粉だけ。お砂糖は、市場で買った粗糖。どうなるかなー。多少配合かえても焼けばおいしいのが、クッキーのいいところだ。
手で成形して天板へ並べる。この段階で旨そうだ。焼けたらいっっっぱい食べよ。魔王なんてやってるとストレスにさらされまくりだからな! 食べてなきゃやってられんわ。
薪を追加して、天板を滑りこませる。さっきのたまごお茶っ葉クッキーが程よく冷めたので、いちまい摘まんだ。
いざ口にいれようとした時、誰何の声がした。「ごめんください」
誰だ、ひとがクッキー食べようとしてるのに。
ちょっとむっとしたが、店番中だった。業務に戻るしかない。クッキー、またあとでね。
「はーい」
アーチをくぐる。……吃驚した。
いち、に、……九人居る。男性六人、女性三人。あ、テーブルで見えなかったけど、子どももいた。十人か。
なんだろう。あ、お客さんか。
にこっとした。「いらっしゃいませ」
「いい匂いがしてるけど、クッキーか?」
年配の男性が噛みつくみたいに訊いてきた。半歩退がる。
「お食事出来ますよね? いい香りがしてるもの」
「クッキーなら売ってくれ、ふた袋ほしい」
「るーちゃんおかしたべたいー」
一度に喋られると困る。クッキーをご所望のお客さまと、多分トマトソースの匂いにつられて来たお客さまと。香りの威力凄いな。
「んっ、トマトの匂いだな。食事もできるのかい」
「はあ」
やっべ、値段どうしよ。原価が……これくらいだからそれに薪代と……洗いものが……。
「おかずパンスープの定食にクッキーがついて銀貨で一枚です。パンおかわり自由」
「一人前くれ」
「じゃあ三人前」
「一人前頂戴な」
よっし。お客さん達はひとりも帰ることなく、各々テーブルをさがして座る。セロベルさん給仕!
セロベルさんを呼びに行こうと廊下へ行くと、グロッシェさんがお掃除中だった。「セロベルさん起こして下さい。お客さんが沢山来ちゃって」
「まあっ。解りました」
厨房へとってかえした。スープつくらないと!