異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
セロベルさんがワゴンを押してきたが、不機嫌げだ。「どうしたんですか?」
「どうもしない。これで全部だな」
「はい」
あとはまかない!
結局クッキーは、お茶っ葉のもラードのもはけてしまった。食べたかったのにい。
セロベルさんが定食を運んでいったと思ったら、すぐ戻ってきた。「クッキーだけほしいって客が」
「ええ?! た、食べるぶんがあ……」
くう。仕方ない。「……さっきのとは違うクッキーしかないですよ? あと原料に豚が含まれてますからね! それでいいなら包みひとつでエスター30個です!」
お客さんが来て嬉しいけど自分の食べる分が減って哀しい、という複雑な感情をこめてまくしたてた。セロベルさんは頷いていなくなる。
戻ってきた。「40」
ああああああ俺のクッキーがあああああ!
クッキーは、ひと包み、大体150gだ。天秤があったから測った。一枚が10g前後だから、十五枚くらいはいっている。多すぎないかとセロベルさんは心配そうだったが、原価を考えたらこれくらいいれないと申し訳ない。
俺のクッキーが。ああ。
涙をこらえて焼きあがったクッキーを包む。足りないのですでに次を焼いている。そっちも全部売約済みだ。俺のクッキーいいいいいい。
「誰がこんなに……」
「収納空間持ちの連中だぞ。傭兵のな。仕事に持っていきたいって」
「そんなあ」
ん?
これってお弁当ビジネスができるということでは?
東門近くでは、サンドウィッチを売っている屋台が多かった。きっとあそこで買って、仕事に持っていくんだ。
転んでもただでは起きないぞ。クッキーはどんどん焼けばいいし。お弁当も売ろう!
「セロベルさん、おべんと売りましょう。さんどういっち」
「ア?」
「大きいのふたつでエスター100個」
セロベルさんはクッキーを包む手を停め、肩を震わせて笑った。「お前、さっきまでクッキーがなくなるってぶつくさ云ってたくせに」
「クッキーはまだ焼く」
「ははは」
セロベルさんに注文をとってきてもらう。お弁当は25個売れた! 値段設定ミスったかなと思ったけどよかった。
クッキーはセロベルさんに任せ、サンドウィッチを用意する。なんのことはない。昨日のローストビーフをうすーく切って、パンにはさむ。
味気ないので千切りキャベツの酢のものをつくり、一緒にはさんだ。グレイビーソースはお塩と砂糖で味を濃くして、片栗粉で強くとろみをつけ、お肉へかける。絶対おいしい。
もう片方はローストビーフを厚めに切って、塩からいチーズと一緒にパンにはさむ。おべんと完成。この量ならエスター100個でも不満は出ない筈。少なくとも俺は文句云わない。