異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
……あ。
なんか、ちょっとよみがえってきた。
慥か、グロッシェさんがワゴンをもう一台、どこからか出してくれて、それにクッキーの包みをのせて食堂へ行ったんだ。自分の分は確保できたから、安心していて……その辺からふわふわしてた。感覚が。
カウンタへクッキーの包みを移して、お肉の様子を見なくてはいけない、と思いついて戻ろうとしたら、傭兵ふうのおにいさんがなにか喋りかけてきた。
内容はうろ覚えだ。とにかく、お肉がー、と焦っていたことばかり覚えている。なんだったっけ。可愛い耳だねとかなんとか云われたんだったっけ?
どうとも判断しがたいので黙ってにこにこしていたら、セロベルさんが来て、厨房へ戻るよう云われて、そのあとライティエさんも来て、お肉焼きすぎたかも、と思って慌てて踵を返したのだ。
で?
クッキーがおなかへ収まると、少々落ち着いた。収納空間からとりだした、洗浄済みのくだものをかじる。ルバ?とかいう、あけびとライチと焼き芋を混ぜたみたいな味の、とろっとまったり甘い、冷たくないアイスクリームっぽいくだものだ。皮ごと食べられて、さるなしみたいなたねがぷちぷちしておいしい。今が旬らしくて、大量に積んであった。すぐ悪くなってしまうのが難だとか……。
あれ? なんだったっけ。
まだ頭がはっきりしていないな。眩暈がかすかにある。
セロベルさんがお茶を淹れてくれた。「ほら」
「……どうも」
「片付けは俺と母さんでやるから、心配すんな」
……ということは、もうお客さんは全員帰ったのかな。
そう云えばしわぶきひとつ聴こえない。かまどへ目を遣ると、火が消えていた。やり切ったらしい。よかった、注文すべてさばく前に倒れたりしなくて。
お茶をすする。これ、なに茶だろう。お茶よりもまろやかで、脱脂力が弱い感じ。
「あ」瞬いた。「売り上げは?」
「そこかよ。お前ほんとに我慢強いのな」
笑われた。??
売り上げは、銀貨で45枚くらい。うっすらしか覚えていないのだが、定食があれから幾らか出た。その分の上乗せだな。
「クッキー、かなり評判いいぞ。傭兵連中はみんな買っていった」
「そうですか」
じゃあ、沢山焼いておいて、売ろう。小麦粉はロア産のがべらぼうに安いし、お砂糖はシアイル産が叩き売られていた。薪代が高くつかないといいけれど。
「さっきも云ったけど、片付けは心配いらねえ。風呂でもはいって来いよ。汗でびちゃびちゃじゃねえか」
「でも……」
「風呂の場所解るよな?」
ん?
もしかして……ここってお風呂あるの?!