異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
グロッシェさんが来て、お皿やお鍋を洗ってくれた。やっぱり、魔法なのかなあ?凄いスピードだ。
クッキーを紙で包みつつ、グロッシェさんの手許を凝視していると、訊かれた。
「めずらしいですか?」
「あ、ごめんなさい、じろじろ見て」
「いえ……マオさん、家政系の職業のひとは、あんまり知らないんですね」
頷いた。多分グロッシェさんしか知らない。
グロッシェさんは小さな指を三本立てる。
「家政婦、主婦、家事手伝い。主なのは、このみっつです。主婦も家政婦も、男性の場合もあります」
グロッシェさんは手を下ろした。洗ったお皿を乾かしている。「めずらしいのは、清掃人、家政取締役、執事なんかですね。そういうのをまとめて、家政系職業と云います」
家政婦に主婦、執事か。職業も色々あるなあ。
「家政系職業にだけ扱えるのが、家政に関することに特化した魔法です。勿論、家政系でもつかえない場合はありますが……正確には魔法じゃないのでは、という説もあるそうです」
「へえー。どんなのがあるんですか?」
「お料理以外の家事を円滑に行う助けになるものがほとんどです。たとえば清掃人は、せっけんがなくても、油でぎとぎとのお皿を綺麗にできます。かびを消すこともできますし、服のしみを落とすことも、ものをすぐに乾かすこともできます」
凄い。お掃除の業者さん並みの働きができるのでは。
乾燥は、お皿や服だけでなく、マットレス、しけったクッキーにもつかえるらしい。羨ましい。
属性は、例えば乾燥なら熱、なにもないところからせっけんのような洗浄剤を作り出すのは大地、かびを消すのは熱……と、魔法によってさまざま。
乾燥って、普通の職業のひとでもつかえそうだけれど、駄目なのだろうか。
訊いてみると、グロッシェさんは鼻先をふよふよさせた。
「似たようなことは出来るかもしれません。でも、家政系職業がやると、うっすらあたたまるだけで、乾燥するんです。ほかのひと達は、乾燥させようと熱魔法をつかって、火事を起こしてしまったり……」
丁度いい感じにできるってことだな。尚更凄い。
「凄いですね」
クッキーの包みを平たいかごへ詰める。「俺もそういう魔法つかえたらな」
「……マオさんは、お料理できるから、いいじゃないですか?」
そうかなあ。グロッシェさんのが凄いと思う。
おいしいものたべられるからいいか。
クッキーの包みを詰め込んだかごをふたつ、ワゴンへのせた。カウンタへ置いておくつもりだ。