異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
「そういうね。悪いけど、その手のひとには売れないの。叱られるから」
「は?」
「お客さんに食べさせてもらえばいいでしょ。あたし遊びで行商してる訳じゃないから」
かちんときた。こっちだって遊びではないし、寧ろ遊びだったらなにが悪いのか。意識の高さをおしつけてくるやつは嫌いだ。俺は意識低い系向上心0スキルなしの人間だしそれでいいので色々と云わないで戴きたい。
「お客さんに食べてもらわなきゃいけないから食材がほしいんですけど」
「は?」
「こういう会話も無駄なんですよ。銀貨10枚なんでしょ? 寄越して下さい」
「だから、売れないっつってんの。これだから――――は」
今のは聴かなかったことにしてやろう。ていうか、記憶を消去したい。面と向かってぶつけていい言葉ではないぞ。まあいやがらせメールで何回も読みましたけどね。
云い返すのもしゃくなので、睨みつけておいた。「なによ?」
「いえ。売ってくれないならいいです。失礼しました」
別のものをさがせばいい。駄目なら駄目でやりようはある。
なんか吐きそう。いやなこと思い出した。言葉はひとを本当に殺す。
市場をうろうろしたが、そもそもほとんどのお店が閉まっているし、見付けたのは売れ残った小麦粉とそば粉だけだ。これでいいや。
買い占めて(店番の少年に喜ばれた)四月の雨亭へ戻る。厨房へとびこむと、セロベルさんとグロッシェさんでお掃除してくれていた。お鍋が全部ぴかぴかだ!
「すぐつくりますね。紙で包むのだけ手伝ってください」
「ああ……マオ大丈夫か? 顔色よくないぞ」
「ちょっと」手を洗って拭いた。「びっくりしちゃって。だいじょぶ。セロベルさんボウルとって」
セロベルさんは、不安げにして、でもボウルをすぐにとってくれた。
ボウルにそば粉と小麦粉をいれ、たっぷりのお水を注ぐ。少量の油、お塩を加えて、ぐるぐるとよく混ぜる。滑らかになってつやが出たら、放置。
その間に具材の準備だ。ハムチーズたまごは絶対として、ほうれんそうソテーもいいな。ローストビーフのうす切りには、人参千切りの酢のものをまぜよう。
ハムをうすく短冊に切って、ざく切りのほうれんそうと炒め、お塩とこしょうをふる。卵は片面揚げ焼きで、しっかり火を通した。チーズは薄くスライス。力が要るのでセロベルさんに手伝ってもらった。
ローストビーフのうす切りは、人参の酢のものとあえて、グレイビーソースをまぶしておく。
パイナップルを一口の半分くらいに切って、お砂糖をまぶし、煮詰める。
さて、生地を焼こう。