異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
おさけ?
ああ、材料的には近いのかな。もとの世界だと酒税法にひっかかりそうな材料も含まれてはいる。お芋とかぶどうとか。
けど、これではお酒はつくれないのでは? 多分。
お酒に……でも、絶対にならないとは云えない。そういえば、古代エジプトのビールって、パン種からつくられてたんだっけ? 昔テレビで見た気がする。フーチは、くだものと蜂蜜だったよね?
首をひねった。「どうですかね?」
「あの、……お酒は絶対駄目なんです……なので……」
うん?
……あー、そうだった。お酒駄目なんだ、信仰上の理由で。
慌てて否定する。「違うんです。お酒をつくろうとしてるのじゃなくって、パンを焼くために必要で」
「ぱん?」
「はい」
グロッシェさんは小首を傾げる。「パン屋さんで買えばいいのでは……?」
「えっと、香りが違うんです。酵母の香りがして」
シュトーレンとかバゲットも発酵はさせている筈だ。香りがよくて、なかがもっちりのを食べたい。
グロッシェさんは暫く考えていたが、あ、と声をあげた。
「もしかして、高さのある……表面がぱりっとしていて、なかがふんわりしている?」
「そう、それです」
「それなら、で食べたことがあります」
グロッシェさんは微笑んだ。よかった、通じた。
「裾野にはないものなので、はじめは香りが苦手でした」
「えっ」
「でも、主人が、おいしいサンドウィッチをつくってくれて……葉野菜がたっぷりで、とてもおいしかった……」
思い出したのか、グロッシェさんはにこっとした。「手間がかかるし、裾野ではうけいれられないかもしれないからと、ここでは一度しか焼くことはありませんでしたけれど。……これが必要なんですね?」
ヤイルさんとの思い出の品だったらしい。
俺は頷く。
「これを何日か発酵させるんです。そうしたら、酵母が増えて、その酵母で小麦粉をおいしくできます」
「そう……こんなふうにするんですね……わたしの誕生日に、特別につくってくれたんです。何日も前から用意してくれてたんだ……」
グロッシェさんは目を伏せ、ちょっと黙る。
「……解りました」頷いて、グロッシェさんはボウルの側面を撫でた。「協力します。あたためればいいんですね」
「ありがとうございます」
やった! これで発酵させたパンに近付いたぞ。
試しに温めてもらうと、体感だが20℃から30℃くらいになった。これならいける……かも。