異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
当然のように、時間がたてばみんなそんなことは忘れる。
再びおふれが厳しくなり、終末や地獄についての説教を宗教者がやるようになり、反発が起こる。
ディファーズの場合、人々は、革命だ! と剣をとる訳ではなく、自分は自分の信仰を貫く! と信仰告白をするのがお定まりのパターン。ある意味、宗教国家であるディファーズには一番のダメージではある。国の根幹である「神聖公」を真っ向から否定されるのだから。
神話のみを信じる「原典主義」。開拓者を信じる「開拓者派」。もしくは信仰を持たない「無神論者」。
このみっつは、神聖公を頂点に据えてすべてが成り立っているディファーズには厄介な存在だ。
信仰告白はおもに原典主義者のやることだが、誰かひとりやると我も我もとほかが追従する。法律的にどうなのかは解らないが、指導の対象ではあるようで、信仰告白をするとなんのかのと難癖をつけられてしょっぴかれる。
で、信仰告白がはやると、信仰告白をした訳でもないのに捕まるひと、が出るらしい。
「例えば、癒し手になれたのにならなかったとか、還元士になるのを拒否したとかね? そのふたつは、神聖公が絶対なるようにって決めてるから」
「あれって絶対なの? うーわ、信じられない」
「絶対なんだって。おばあちゃまからきいたの」
ライティエさんはディファーズにルーツを持つだけあって、神聖公の決めたことには詳しいようだ。
メイラさんはパンを噛み千切る。「面倒くさいよねえ。癒しの力があったら癒し手なんてならなくていいだろ? 得しないじゃないのさ」
「神聖公の方針だから、ですませちゃうらしいよ? かわってるけど」
「自分の職業も選べないのか……適職がそれしかないならともかく、酷い話だね」
バルドさんがいやそうに云うと、ライティエさんはこくこく頷く。
「ねー。ほら、ディファーズはずっと災害続きでしょ? 領地も随分減っちゃったし、還元士がほしいのは解るけど……ひいおじちゃんが裾野に移住してくれててよかった。ああ、そうだった。そのひいおじいちゃんがね、信仰告白裁判の時に、原典主義者じゃないかって疑われたの。で、逃げてきたんだって」
亡命してきたってことか。
じゃあ、ルッタさんのとこもそうなんだ。癒し手になるのを拒否して亡命かあ、なんかこわい国だな。
ミューくんが癒し手を選ぶと云っていたのは、魔力が弱いから、とか、ほかがたいしたことないから、というだけではないのだろう。神聖公の方針に反対するような行動をとれば、あやしまれて最悪荒れ地おくりだ。俺だって、ミューくんと同じ立場なら癒し手になる。