異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
とぼとぼ歩いて帰った。寒い。ほんとにコート買いに行こうか。
四月の雨亭の敷地へはいる。裏庭のほうからトゥアフェーノの鳴き声がした。ぴぴ、ぴぴ、と、小さな声だ。ねごとかもしれない。
「マオさん。お帰りなさい」
吃驚した。
厨房に這入ったら、アーレンセさんが居た。夜食をつくっていたみたいで、お鍋にお湯をわかしている。
テーブルに突っ伏したセロベルさんと、その髪の毛を編んで遊んでいるサッディレくんも居る。
マントを脱いだ。燃える薪と、蒸気のおかげで、あたたかい。「どうしたの?」
「セロベルさん、ここで寝てしまっていて。寒そうだから、あたたかいスープでもと思ったんです」
それはいい。俺もスープ飲みたいと思ってた。
アーレンセさんは目を逸らす。「でも。……つくりかたが解らなくて」
「大層なものじゃなきゃ、お鍋と材料とお水があれば、できますよ。あ、火を忘れてた」
スープは簡単で、冷蔵庫の掃除にもなる。刻んで炒めてお水がストックかブロスを注ぎ、好みの味付けをして煮込む。あとは食べるだけ、だもの。
それにどんな料理でも云えるが、失敗したらお鍋に戻してトマト缶をあけ、カレー粉をいれて味を調え煮込めばカレーになる。もとが食べものなのだから、炭化するほど焦がさない限りはどうとでもなるのだ。
一緒につくってみる? と云うと、アーレンセさんはこっくり頷いたし、サッディレくんもすっとんできた。セロベルさんはすてあみこみが可愛いハーフアップにされていた。
お野菜のスープと、サッディレくん用にお肉の煮込みをつくる。
お野菜は、人参・セロリ・蕪・キャベツ。人参セロリをみじん切りにしてお鍋へいれ、油でよく炒めてお塩をいれる。気持ち少なめ。蕪を櫛形に切って投入し、蕪の葉は小口切りにしておく。牛ストックをいれてぐつぐつしてきたら、ざっくり大きめに切ったキャベツをいれて蓋をし、ぐつぐつしたら火から外して放置。
お肉は牛もも。こぶし大のブロックをお鍋へいれて焼き目を付け、基本のトマトソースとウスターソースに、牛ストックを少しいれる。2:2:1くらいの割。あとは蓋をして煮込むだけ。
ふたりとも興味津々。お野菜を切るのがとても巧かった。……魔物と戦ってたからかなあ?
「これ、いい香りですね」
「これは、トマトとか、人参とかからつくってるんです。こっちは甘いバナナもはいってますよ」
「バナナも?」
頷く。
本当は牛肉の煮込みにはお酒をつかいたいのだが、ない袖は振れない。これでもおいしくはなる、と思う。