異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
ヒーラに特化したいなら便利だけど、実際戦う時にしかできなくて不便、ということか。
「だから、癒しの力を持ってるやつは、わざわざ癒し手にはならねえ。戦士になって体力を高め、自分が動けなくなる事態を回避したり、魔導士になって魔力を高め、魔法の威力を確保しつつ攻撃もできるようにする、とか……癒し手になると、だけって感じだからな」
セロベルさんは指折り数える。
「俺が知ってる、癒しの力を持ってても癒し手になったやつは、難しい病気を治したいってのがひとり、についていきたいってのが四人だ」
ああ、名誉なんだっけ、についていくのって。
ミューくんも、サーダくんから云われてた。弟を宜しくー、みたいな。
ミューくん、結構沈んでたけど、大丈夫かなあ?
仮眠をとって、お茶の時間。
メイズオブオナーを焼いた。レアディさんが牛乳とバターを持って来てくれたので、けちけちせず沢山。いい香りに引き寄せられたらしく、お客さんはひきもきらない。
そのなかに、サキくんを見付けた。今日も例の、革新的なお嬢さんと一緒だ。ふたりきりだから、デートかもしれない。
トレイを置くと、サキくんがぱっと表情を明るくした。「あなたは、いつか書店で……」
「ああ、はい」
覚えているとは。こちらは、サキくんがきらきら美少年だから、がっつり記憶に残っていたけれど。
「お知り合い?」
リオちゃんがにこっと笑みかけてきた。なんていうのかな、ほかに云いようがないんだけど、少女漫画っぽい。
「わたし、リオと云います。サキちゃんの親戚なの」
「マオです」
ぺこっと会釈する。サキくんも笑顔になった。「マオさんですね。僕はサキです」
「あら? お知り合いじゃないの?」
「書店で同じ本に興味を持った、お仲間だよ」
「まあ、なんて素敵な出会いなの。お話みたい!」
きらきらー、なエフェクトがかかって見えた。少女漫画。
サキくんはくすくすする。「リオ、困らせてはいけないよ。マオさん、もしかして、こちらの厨房に?」
「うん。あれ、どうして解ったの」
「あの後、書店を出る前に、見たんです。料理の本を沢山抱えてたでしょう?」
そうだ、あのお店で買いこんだんだった。
リオちゃんが目をぱちっぱちっとさせる。なんとなく期待顔。「サキちゃんの運命のひとなのかも」
「リオ、困らせてはだめだってば。すみませんマオさん」
「でも、素敵なひとだわ。サキちゃんみたいに耳飾りをしていないし、気が合うと思う」