異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
井は、湖とか、泉があって、それにあわせて建物をつくる。
廟はそういうのはなく、礼拝堂というか、寺院というか、そういうものをつくって、みんなで集まってお祈りしたり、聖職者の説教を聴いたりする。井のように孤児を預かったりは(基本)しないが、廟に子どもが捨てられることはあって、そういう場合は廟に通っているひとがひきとるか、井に引き渡される。また、井と違って、旅行者が泊まったりはできない。
解り易く区別するなら、井はまちの外、廟はまちのなかにある。
あと、廟はその性質上、ほとんどがディファーズ出身もしくはディファーズ系のひと達によって運営されている。廟に集まってお祈りをする、というのが、ディファーズの風習らしい。
今のシアイルでも昔はそうだったのだが、神聖領と帝国に分かれた辺りからそれは廃れた(と云っても、シアイル人が運営している廟も、シアイルにはある。かつての名残、みたい)。裾野では、集まってお祈りと云ったら井である。
だから、裾野に限らず、世界各地の廟は大体ディファーズ人もしくはディファーズ系が運営していて、しかもそのひと達は神聖公の方針に賛成している。
シフェ通りは細く、くらかった。
ただし、廟は窓から光がもれている。なんのことはない。ディファーズではよなかにもお祈りをやるのだ。だから、いつでもお祈りに来られるよう、夜でも灯は絶やさない。……ライティエさんに教えてもらったこと。
教会、という感じかな。外観。石造りで大きい。
来たものの、どうすりゃいいわけ?
建物の奥に、木の生い茂った庭がある。
そちらで光が動いて見えたので、おそるおそる行ってみると、髪の短い男の子がランタンを持って立っていた。「ああ」
「こんばんは」
「こんばんは」
くすっと笑われた。……昨日、忠告してくれた子だ。「無事だったんだ。よかった」
「えーと。昨夜はありがと」
「うん。お互いさまでしょ」
男の子は、すーっと歩いていく。「ここ、初めて?」
「あ、うん」ついていった。「どうしたらいいか解らなくって」
「あいつでしょ、名簿んとこにいる? あのひと不親切なんだよ。こっち」
手をとられた。ひやっと冷たい。
びくっとしたからか、男の子は気の毒そうに云った。
「ああ、ごめん」
「ううん。凄く冷えてるね」
「晩飯ぬいてきたから。えっとね、こっち」
ばんめしぬき? じょうだんじゃないぜ。
「どうして食べてないの」
「どうしてって、ほら、色々あるとさ。吐いたりしたら興ざめでしょ」
そういう理由か。それにしても、ご飯ぬいてまで……。
男の子は、グエンくん。18・9ってところかな。身長175cmくらいで、細い。髪は濃い緑色でまっすぐ。猫っぽい顔で、笑うと幼い。アクセサリの類はまったくつけておらず、あたたかそうな毛皮のローブを羽織っていた。
「あった。ここだよ」
グエンくんがなにかを踏んだ。と、地面に隠されていた戸がひらく。地下へ続く階段があらわれた。