異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
お茶の時間が来る。クッキーだ。
この間食べた、生姜のアイシングがかかったビスケットにヒントを得て、しっとりとバター多めのクッキーに、生姜風味、レモン風味、バニラ風味のアイシングを別々にかけてみた。三種類が六枚づつ食べられて銀貨1枚。バターの値段的にぎりぎり。
トレイをのせたワゴンを押して、食堂へ行く。
ミューくんが来てくれていた。チェセールくんは居ない。かわりに……。
「あ」
「……あら」
えっと。……あれ。どこかで見たことあると思った。いつか、お風呂屋さんで、助けてくれた子だ。
さらさらしてまっすぐの、淡い紫の髪を揺らして、女の子は小さく会釈する。やっぱり眉だけ白い。服は前と同じような、お姫さまっぽいドレスだった。「こんにちは」
「こんにちは。ミューくん、こちらは……?」
「あれ。もしかして、知り合いなの? ジーナ」
ジーナちゃん、は、ふるっと頭を振った。俺は苦笑する。
「あの時はありがとう。助かりました」
「……いいえ。あなた、とってもかわってる」
「ジーナ」
「だって、耳飾りをしてないわ。あんな目にあったのに」
ははっと笑う。まあこうなったら意地だ。ピアスはしない。
トレイをテーブルへ置いた。「召し上がれ」
「わ、おいしそう」
「……綺麗」
ミューくんが俺を仰いだ。「マオさん、これって買って帰れますか? チェスに持ってってあげたい」
「うん、できるよ。包んどくね」
「わあ、ありがとうございます」
「ミュー、相変わらずあの子に甘いのだから」
「いいじゃないか。チェスは可愛いもん」
ミューくんがふくれっ面で云うと、ジーナちゃんはくすっと笑った。……デートなのかな?
ふたりは親戚、らしい。ジーナちゃんは無表情に云う。「うちはファバーシウス家に比べたら、吹けば飛ぶようなものだわ」
「ジーナってば。そんなことないだろ。君んとこのほうがよっぽどお金持ちだ」
「でも、神聖公を輩出したことはないもの。格が違う、でしょ?」
「父さんの真似はやめてくれ」
ミューくんが本当にいやそうに顔をしかめ、ジーナちゃんは眉も動かさずにお茶をすする。
て、いうか。「ファバーシウス家って、神聖公を出したことがあるの?」
「ああ、凄く昔の話です。しかもふたりだけ」
「へー。凄いね」
「昔の話で、俺は関わりないですから」
ミューくんはその話がいやみたいだ。
ジーナちゃんがじとっと、俺を……睨んでいる? のかな?
「あなた、やっぱり変」
「え?」
「ファバーシウス家から神聖公が出たことも知らないなんて。荒れ地から来たみたい」
ぎくっとした。当たらずとも遠からずだから。