異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
かじかんだ手をこすり合わせ、息を吹きかける。夜の雨は冷たい。
俺の腕を掴み、ヴェンゼくんが耳打ちしてきた。「グエン達には黙ってて」
「え?」
「おねえさんに内証で来ちゃったんだ。熱が出たから休むって云って」
ほう。
多分、おねえさんって云うのは、元締め……みたいなものかな。そっか、ヴェンゼくん、仲間や上役に黙って、こっそり稼ぎに来たんだ。
「わかった」耳打ちを返す。「ただし、いい客は譲って」
ヴェンゼくんはほっと息を吐き、こっくり頷いた。
ティーくんが苛々と爪を弾いている。
暫くすると、もうひとりのりこんできた。こちらも賭場で見かけたことのある青年だ。はじめ見た時お酒をぐびぐびいっていて、心配になった。
青年はティーくんの隣に座る。俺の向かいだ。馬車が動き始めた。「よう、ティー」
「……ああ」
「なんだよ、あいそがないな。そんなんじゃ売れ残るぜ」
青年は朗らかに笑い、こちらへ片手をあげた。「よ。僕はリーニ。南の五番区が縄張りだ。一応顔役をやってるよ。宜しく」
「ヴェンゼです。あの……」
ヴェンゼくんが云い淀むと、リーニくんは頷く。
「ああ、細かい自己紹介はいいよ。云い難いこともあるだろ。宜しくヴェンゼ」
「マオです」
「宜しくマオ、博徒のお嬢さんだね」
くすくす笑われた。俺は首をすくめる。
リーニくんはよく喋り、よく笑った。ティーは土魔法で彫像にされているみたいだとか、ヴェンゼは顔をよく洗っていないとそばかすをからかったり、穴が開いていない俺の耳を見て驚いて倒れるふりまでした。
ヴェンゼくんはそれで緊張が解れたようで、おずおずとリーニくんと喋る。
「あの……俺、初めてなんだけど、どんなとこ?」
「ん? ああそっか。こないだとは違う顔ぶれだな。おっと、ティーを忘れてたぜ。売れ残り組なんだ僕達」
「リーニ」ティーくんがぎろりと隣を睨む。「お喋りをやめろよ。唇を縫いつけてやろうか?」
「おお、こわい」
リーニくんが震えた。ティーくんはちっと舌を打って、顔を背ける。
リーニくん、ティーくんは、以前もこの馬車に乗ったことがあるらしい。
その時は、降りる前に目隠しをされ、靴を脱がされた。それから担がれてつれていかれた。目隠しを外すと豪華な内装の部屋で、男性が数人待っていて、暫く楽しく飲み食いをした。娼妓と、待っていた男性とでは、数に差があったそう。
「実を云うと僕は二回売れ残ってるんだ」
リーニくんはにこっとする。「はじめ行った時は、お客の倍以上の数、僕達みたいなのが呼ばれてた。次はティーと一緒だったんだけど、お客が三人で僕らは五人。選ばれないと、また目隠しされて、馬車で帰らされるよ」