異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
ほーじくんは、バルドさんが送っていった。
バルドさん、病み上がりに無理をさせたかな。ちょっと心配。
寝ろ、とセロベルさんに小突かれた。手洗いと歯磨きを済ませ、部屋に戻る。井戸端で歯を磨く時はこちらのはぶらしをつかっているので、随分上手に扱えるようになった。人間何事も慣れだ。
ベッドに横になって、羽毛布団っぽいものと厚手のブランケットを被ると、すぐに眠った。
目が覚める。多分早朝。
四時間くらいしか寝ていないだろうが、朝ご飯をつくらない訳にはいかない。俺はベッドから降りて着がえ、部屋を出て、歯を磨き、顔を洗い、用を足す。手をよく洗って、パンを仕込んでおいた。
寒いので、ふかふかのローブを羽織り、市場へ向かう。朝ご飯どうしようかな……。
「おはよう」
「!!」
心臓が停まるかと思った。
慌てて振り向いて脱力する。まったく気配もあしおともなく、そこにはいつの間にか、ジーナちゃんが佇んでいた。
ジーナちゃんは、紺色のドレスに、白っぽい、フェルト地のローブを羽織っていた。ドレスはフリルがいっぱいで、スカート部分はふんわりふくらんでいる。
「お」咽が詰まった。「……おはよう」
「おかいもの?」
小首を傾げて訊いてくる。俺は頷くだけだ。
ジーナちゃんは、ふうん、といって、俺が物色していたくだもの屋さんを覗きこむ。
「……あー、ジーナちゃんは、どうしてここへ?」
「今日、試験があるの」
姿勢を正したジーナちゃんは、髪をさらっと後ろへ払った。「目が冴えてしまって」
ジーナちゃん、淡々としているから緊張なんてしないのかと思ったが、そうでもないみたい。
俺は笑みを浮かべる。
「ジーナちゃんなら大丈夫だよ」
「そう?」
「うん。今も、気配がなくって吃驚しちゃったし」
ジーナちゃんは、どういう意味なのか、こっくり頷いた。
「……買うの?」
「ああ、うん。おねえさん、これください」
銀貨で支払いを済ませ、目当てのくだものを収納空間へいれた。「ジーナちゃん、朝ごはん食べてく?」
「お幾ら?」
「銀貨1枚。おまけしてあげる」
おどけて云うと、ジーナちゃんはふふっと笑った。「ありがと。あなたのお料理なら、気合がはいりそう」
ジーナちゃんを先に行かせ、買いものをした。小麦粉が叩き売られていたので買えるだけ買っておく。ロアから新しいものが届いたので、古いものは値が下がったのだ。古いと云ったって食べられる。収納しておけばこれ以上劣化しないっぽいし、損はない。
めぼしいものを仕入れ、四月の雨亭へ戻った。厨房へ這入ると、グロッシェさんがお掃除中だ。「おはようございます」
「おはようございます……」
グロッシェさんはなにかいいたげだったが、結局なにも云わずに、ばけつと雑巾を手に出て行ってしまう。厨房はぴかぴかになっていた。