異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
ジーナちゃんが選んだ香辛料は、ローズマリーとコリアンダー、こしょうだった。
「香辛料は、めったやたらいれなければなんとかなるよ。好みが大きいから」
「……これ、いい香りね」
香辛料を幾つかとりだして見せると、ジーナちゃんはコリアンダーをとって、くんくんと嗅いだ。俺はオーブンへ火をいれながら笑う。「俺もそれ好き。でも、苦手なひとも多いんだよ」
「そうなの。……あなたって、ほんとに変なひとね」
「え?」
「こういうこと、調理系職業になるかも解らない人間に、教えないのじゃない?」
それは……こっちの世界ではそうなのかな。
ベーコンがぱちっとおどった。「たまご、割って」
「たまご?」
「そう。簡単でおいしい、でしょ?」
たまごを渡すと、ジーナちゃんは目を伏せた。
「……どうやって割るの?」
あら。
軽く握って、平たいところへこつん。
ひびがはいったら、そこを両手の親指でひろげるようにする。
そう教えると、ジーナちゃんはひとつ目のたまごを握り潰した。
「……ごめんなさい」
「ああ、大丈夫々々」
慌ててボウルで受けたたまごから、からをとりのぞく。「火を通せば平気。もうひとつ割ってみよう」
ジーナちゃんは律義に手を洗い、たまごを割った。今度は調理台の上で潰れてしまった。
ボウルへ回収する。調理台はぴっかぴかに綺麗だから大丈夫。ジーナちゃんは、困ったみたいに眉尻を下げた。
からをとりのぞく。「次は巧くいくよ」
「……やってみる」
ジーナちゃんはたまごを掴み、慎重に調理台へ打ち付ける。三回目でひびがはいり、ジーナちゃんがはっと息をのんだ。
ジーナちゃんは、ゆっくりと両手でたまごを包むようにし、ひびを押し広げ、そうしてたまごを割った。
黄身が破れてしまったが、仕方ない。ジーナちゃんは目をぱちぱちさせる。「できた……の?」
「うん。巧いよ」
ボウルを調理台へ置く。ジーナちゃんは、嬉しそうに微笑んだ。
ベーコンの横へ、たまごを注ぎ込む。「慣れたら、この上でたまごを割ればいい。たまごは火さえ通せばいいし、いろんなものと合う。どこでも手にはいるしね。だから、たまご料理を幾つか覚えておけば、自炊はできるよ」
これは、小学校の家庭科で、先生が話していたことだ。
ジーナちゃんは頷き、お鍋を覗き込む。
「たまごは色んな料理につかわれてるし。お菓子にもなる」
「そうなの?」
「マシュマロの原料にも、たまごの白身と牛の骨は含まれてるよ」
こっちのゼラチンは牛の骨からつくるのだ。
ジーナちゃんはきょとんとして、ぐいっと首を傾げた。「信じられない」