異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
「じゃ、結局、殺人鬼たちを捕まえてくれたのは誰か、解らず仕舞?」
「ってことになるね」
「えー、うそー、気になるよー」
はい嘘です。俺がやりました。
俺は適当に脚色した話をそれなりの温度で語り、グエンくん達は時折小さく叫んだり、笑ったりしながらそれを聴いてくれた。
グエンくんは、ハツァル達を捕まえたのが誰か、が気になるらしく、食い下がる。「でも、ほら。後姿くらい見なかったの? 声とか」
「さあ。あーでも、凄い魔法つかってたよ。遠くから音が聴こえてきた。私兵が走りまわってるし、こわかったな」
そのあとの、ほーじくんがつかった魔法を思い出すと、自然と顔が歪む。俺のしかめ面は、私兵たちに追いまわされる恐怖を思い出して、と捉えてもらえたらしい。よし。
大昔、子役になりたての頃、お化けに対する恐怖をこらえる表情、というのを発注されて、どうしたらいいのか解らなかったことがある。
その時に事務所のひとから助言してもらったのだ。
歯医者さんで治療してもらったことある? 今から歯医者さんで歯を抜いてもらうと思って、でも順番が来るまで待たなきゃいけないの、まんがもテレビもなしで。
それは凄く解りやすい例えだった。そのおかげでなんとかなったのだ。そこで学んだ。演技には、自分なりの解釈が必要。
私兵をこわがらせていたのはどちらかと云うと俺だ。つまりあの場面を思い出しても、真に迫った恐怖の表情はできない。だからその少し後、ほーじくんの恩寵魔法に恐怖した瞬間を思い出して話せばいい。
我ながら、小器用で小手先な人間だ。
「おひめさま」
髪をとうもろこしみたいに編み込んでいる紳士が近付いてきた。後ろで垢ぬけない少年ふたりがもじもじしている。
ティーズくんがにっこり笑い、ゴブレットをカウンタへ置いた。「こんばんは、おにいさん。ぼくたち、遊びに来たの?」
「こいつら、僕の弟なんだけど、手解きしてもらえないかな」
とうもろこしみたいな頭のひとが親指で後ろのふたりを示す。
グエンくん達が顔を見合わせた。グエンくんがためらっているみたいに云う。
「うーん、いいんだけど、ひとつだけまもってもらえる?」
「なんだい?」
「殺さないでもらえるとありがたいな」
お客の三人はきょとんとしたが、グエンくん達がくすくす笑いを始めると、冗談だと解ったようで一緒に笑う。俺もちょっと笑ってしまった。
正直、俺がグエンくん達の立場だったら、笑い話にでもしてしまわないとこわくて稼げない。そういうことなのかな、と思った。