異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
リジェベット・モーン。通称ベッツィ。シアイルの地方議員の父と、裾野出身の母の間に生まれる。
収納空間、暗視、快速と複数の特殊能力を持つが、能力値は体力:良、魔力:可といたって平凡。
適職が耕作人だったため、農業、主に肥料について勉強し、学校を卒業後に国府へ就職。二年間の書類仕事の後、地方の農村の監督官として派遣される。
シアイルでは、国府=中央官庁と、領主=地方自治体首長が行政を執り行う。
おおまかな方針を決めるのが国府、それに従いつつも自由に領地を発展させるのが領主だ。
シアイルの大方針はこの百年変わっていない。領土発展だ。
なかでも食糧の生産に重きを置いている。北部と西部では、五十年かけて大規模な養蜂事業に成功しており、てっとりばやく追いつきたい東部・極東部では、穀物の生産量増加を目指していた。
ベッツィの派遣先は、二十年ほど前に野盗に襲われ、村の半分が焼き払われたという田舎の村だ。事件直後に領主が変わり、数度の転封を経て今ではさる公爵家の所領になっている。
公爵さまはしかし、帝都に居るばかりでくだってはこない。
そもそも、ベッツィが学校を卒業するくらいの時期から、貴族がやたらと転封されたり、官吏が一斉に辞めさせられたり異動したり、官吏の試験が中止になったり……と、きな臭い。
でもベッツィはあまり気にしていなかった。耕作人として、畑を耕す。単純な話だ。それに、国府へ監察官派遣を依頼したのは公爵さまだし、なにも心配はいらないのだろう。
ベッツィは赴任そうそう、風変わりな還元士の存在を知る。
灰色の髪を短く切って、耳飾りもつけない若い男。村の大半が、還元してもらう以外では決して関わりたくないと考えている、者。
還元士が居ないから仕方がないが、もし別に還元士が来てくれるなら追い出したい、と、村の代表者は語った。青年達に多大な悪影響を及ぼすから、と。ベッツィは下っ端とはいえ国府の官吏だ。遠回しに還元士の派遣をねだったのだろう。ベッツィは深く考えず、上司へ還元士の派遣を請うた。
悪影響、という程のものはない。それはすぐに解った。
大人しく、倹しく、目立たず静かに暮らし、還元してくれと頼まれればいつでも応じ、些少な報酬でも文句を云わずにうけとる。寧ろ品行方正だ。
慥かに、髪が短いのをからかって追いまわす青年達は居た。でもそれは還元士の所為ではない。ものを盗んでおいて、盗めるようにしてあったのが悪いと開き直るのは愚かだろう。
ベッツィは毎日畑に出ていたから、たまに肥料をつくりに来る還元士とも顔見知りになった。ある日、なんだか見覚えがあるような気がして、名前を訊いた。ライナイ、と返ってきた。?