異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
「おはよーっす」
「おはようございます。あ、ジーナさん」
サッディレくんとアーレンセさんが這入ってきた。ジーナちゃんは小さく頷くが、パンケーキから目をはなさない。
俺はテーブルを示す。「おはよう。今日は誰から?」
「ふたりが先にくえよ」
お茶を淹れているセロベルさんがこちらへ背を向けたまま云う。「あと、給仕、雇えたから。そうだ、口入れ屋に行って、募集取りけしとかねえと」
「見付かったんっすか、きゅーじさん」
「どんなかたです?」
サッディレくん達がテーブルに着いた。レアディさん、ルッタさんと、親しげに短く挨拶を交わす。
セロベルさんがお茶をそのテーブルへ配り、ワゴンを押しつつ云った。「俺の後輩とその奥さん。じゃ、先に茶ァ配っとくわ」
セロベルさんがアーチを潜って食堂へと消えた。
「後輩って」
びっっっくりしたあ。ジーナちゃんいつの間に移動したんだろう? 俺の隣まで来てた。
「の?」
「じゃ、ないかな。じーなちゃん?」
「とり、見せて」
焼き具合をたしかめたいのか。距離が近すぎて胸が当たりそうなんですけど。
横へずれると、ジーナちゃんは乾いた布巾越しにオーブンの扉を掴み、簡単に開けた。重たいのに。
閉めるのも軽々やって、ジーナちゃんは小首を傾げる。「もう焼けてるの?」
「んー、もう少ししっかり火を通したいんだ。竹串でつついて、流れ出てくる汁が透明だと、安心かな」
お肉に関しては、食中毒がこわいからな。牛ブロックなら半生でもおいしく戴けるけれど、鶏肉はそういう訳にいかない。
サッディレくんがお茶をすすった。「入山経験者かあ。すっごいなあ」
「サッディレくん、目指してたのよね?」
「ん。無理だったけど」
ジーナちゃんは再び平鍋に集中し、パンケーキを見事ひっくり返した。
「アーレンセさんは入山しなかったんですか?」
「ええ。試験そのものは何度かうけましたけれど、修復者は、そこまでめずらしいものではありませんから」
そうなの?
「--者」でもランクみたいなものはあるらしく、修復者は一番ありふれているそう。と云っても、少ないことでおなじみの職業、祇畏士よりずっと少ない。
だから、やっぱりめずらしいと思うのだが、それひとつで入山できる程ではないみたい。
デザートは、手を抜いて、砂糖漬けの野苺を煮たものにした。砂糖に漬けてあるくだものは、ディファーズではお茶うけとしてよく食べるそうで、俺がそれをお鍋へあけるとジーナちゃんは目をぱちぱちさせた。
「それを、どうするの?」
「煮るんだよ。火を通し過ぎないくらいに、食感を残して」
「お茶の時に、そのまま食べるものだと思ってたわ」
「そのままでも勿論おいしいけど、これはパンケーキにかけると最高だよ」