異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
三人は、近くの市場をぶらついて、それからねぐらへ帰るそう。じゃあまた、と手を振って別れた。三人で楽しそうにお喋りをしながら去っていく。
高校生くらい、なんだよなあ、みんな。なんとかならないものかなあ。
溜め息を吐いて、踵を返した。
厨房へ戻ると、ジーナちゃんが流しの前でかたまっていた。
流しのなかは泡でいっぱいだ。それが今にもあふれそうになっている。グロッシェさんが鼻先をふよふよさせた。「せっけんのつかいすぎです。泡の立つ濃度は必要ですが、それ以上はゆすぎが大変ですよ」
「ええ……今の状態が、まさにそれだわ」
「お水を足せば失活しますから、さあ、次はせっけんをつかいすぎないように……」
そうだ、せっけんたりなくなるかも。明日、市場で買おう。
「マオ、朝飯ふたり分」
セロベルさんが中庭側から這入ってくる。後ろに、ツァリアスさんとベッツィさんが居た。
会釈に会釈を返す。セロベルさんはふたりを席につかせ、グロッシェさんへ振り返る。「母さん、さっき話したふたり」
「グロッシェと申します。セロベルがお世話になったそうで……」
「いえ、お世話になったのはこちらです」ツァリアスさんが立ち上がって、グロッシェさんへ丁寧に頭を下げた。「宜しくお願いします」
ベッツィさんも立とうとしたが、ふらついて座りこむ。体がきつそうだ。セロベルさんがあわてた。「まだ本調子じゃないんだろう。無理しないで下さい」
「……すみません。体は丈夫なつもりなんですが」
「ご飯、用意しますね。食べられないものはありますか?」
ツァリアスさんとベッツィさんが目を交わした。
ツァリアスさんが云う。「あの、お酒だけは、無理です」
グロッシェさんの鼻先が、満足そうに動いた。
シアイルでは還元酒をよく呑むみたいだし、ツァリアスさんはおそらく皇帝に付き合って呑まされていたのだろう。間違っても出さない。
ふたり分、お膳をつくって、テーブルへ運んだ。ジーナちゃんは無事、洗いものを終え、手を綺麗にお水でゆすいで、ふやけた指先を眺めている。
バームの容器を差し出した。「どうぞ」
「……なあに、これ」
「あらいものすると手がかさつくから、これを塗っておいて」
「手も、手入れが必要なのね。武器みたい」
たまに発言がこわいよジーナちゃん。
ジーナちゃんはバームを触り、訝しげに首を傾げた後、爪でかりっとひっかいてこそげとった。ありゃ。
それを、両手で温めてなじませている。ま、つかえるならいいか。