異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
オーブンの扉を開く。甘酸っぱい香りが漂った。
とりだして、調理台へ置く。リエナさんがやってくれた。ジーナちゃんが心配らしく、リエナさんはずっと手伝ってくれている。
「おいしそう! これ、あのおとうふってやつからつくったの?」
「色々はいってますけどね。こんなもんかな?」
型からとりだしたチーズケーキを、慎重にカットした。ぷるぷるふわふわだ。うまそ。
小皿にのせた。これはジーナちゃん、こっちがミューくん、これがリエナさんの分で、セロベルさん、サッディレくん達のは収納しとこう、でグロッシェさんの、あとはツァリアスさんとベッツィさんので、残りは俺の。
かなり大きな型なので、俺の取り分も多い。チーズケーキ大好き。
セロベルさんが駈けこんできた。あみこんでハーフアップにしている髪が、片側崩れていた。「おい、ライティエとマルロが魔につかれたみたいになってる。さっさと菓子を出してくれ」
「はーい」ワゴンに、ケーキが丸ごと乗ったお皿を二枚、のせた。「できましたよ」
「助かる……」
セロベルさんはワゴンを押していった。「おら、持ってきたぞ! マルロ、武器は仕舞え!」
こわいんですけど。
ベッツィさんにケーキのお皿を渡した。「ありがとうございます」
「苦手な味だったら残して下さいね」
「はい。わあ、いい香り。わたし、酸っぱいものが好きなんです」
ベッツィさんはにこにこして、ケーキの匂いを嗅いでいた。
リエナさん、ミューくん達にもケーキを渡す。俺もくうぞー!
「マオ」
たべようとしたら、セロベルさんが頭ぼさぼさ状態で戻ってきた。「まだあるか。メイラとラールが喧嘩になって……」
ええー。うう、仕方ない。もうちょっと焼こう。
俺のおなかに収まる筈だったケーキを、セロベルさんへ託した。俺はチーズケーキ(お豆腐いり)を再び焼きにかかり、ケーキのおかげで暴動は鎮圧された。
お豆腐チーズケーキは大人気だった。そういえばメイズオブオナーもとぶように売れたし、チーズっぽいお菓子は好まれるのかも。
お豆腐チーズケーキはレギュラいりだな。売れるから。
「マオさん」
チーズケーキをカットしていると、ミューくんが傍まで来た。「あの、ほんとにすみませんでした、大騒ぎして」
「ううん。おちついた?」
笑みを返す。ミューくんは含羞んで苦笑した。
「落ち着きました。彼女、連れて帰ります。どうにもできないかもしれないけど、ジーナがこれ以上傷付かないように、親に相談します」
「……結婚するつもりはないの?」
「ジーナは妹みたいなんです。そう云ったら、わたしがお姉さんよって叱られそうだけど」
ミューくんは微笑んだ。まだ中学生くらいなのに、負担が大きすぎる。