異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
こういうのが、少しは恩返しになるかな?
喜んで教えますと云うと、リーリさんはごわごわした紙と、鉛筆の芯みたいなのを取り出した。筆記具らしい。鉛筆の芯はべたべたするようで、リーリさんの手はすぐに黒く汚れた。
「牛脂をつかうのね!」
「うすーく成型して、焼けば、匂いはほとんど飛びますよ」
バターがないから牛脂をつかってみただけなのだが、意外と巧くいったのだ。
「香辛料抜きでもいけそう。ありがとうねマオ」
「いえ。役立ちますか?」
「次、祇畏士さまがいらした時、出すわ。ヤームにも食べさせたいし」
リーリさんはそのことを想像したのか、嬉しそうににっこりした。
出発の日が来るまで、色々と準備した。と云っても、半分以上みんながしてくれたのだけれど。
旅装を整えなければいけないということで、布屋さんから布をもらい(対価は牛脂のクッキー。布屋さんは大喜びだったそう)、服を縫う。これは、バドさん、ルルさんが手伝ってくれた。縫うのは自分でもできるので、指示をもらってやった。
その間に、リーリさんとドールさんが、道中ひもじくないようにと、日持ちする焼き菓子を沢山つくってくれた。収納空間持ちだから多めにつくってくれたそうだ。収納空間というやつは、いっぱいにしても重くはならないので、行商人になるひとが多いらしい。
それと、お金。持っている銀貨を、何枚か、エスターに替えてもらった。価値についてだが、エスター三個で揚げパンみたいなお菓子をひと盛り買えるそう。素泊まりなら、銀貨一枚で三日は固い。
ただし、宿賃が安いところは治安がよくない。歴戦の傭兵なんかはそれでも平気で泊まるが、マオは絶対近付いちゃいけないと釘を刺された。こわいのも痛いのもいやなので、素直に頷いた。
隣の隣の村の行商さん=ハーバラムさんの御用達宿があるだろうから、そこへ泊まること。食事も、一回で銀貨一枚くらいのところが安全だろう。
貝貨を崩したかったら、両替商へ行くこと。
知らないひとにはついていかない、出歩くのは日中だけ、お金は隠しておくこと、かっぱらいや強盗に会ったら自分で取り返そうとせず、警邏隊へ助けを求めること。
「マオは貝貨を何枚か持っているだろう。それだけあれば、レントで何年か暮らせると思う」
えっ。そんなに価値が高いのか。
ナジさんの訓示を、隣で縫いものをしながら聴いていたダストくんへ、そんなに価値があるのと訊いてみた。低声が返ってくる。「貝貨五枚で馬車を買える。一頭立ての、小さいやつだけど」
「えー」
軽自動車くらいの感じかな?
ごほんとナジさんが咳払いした。居住まいを正す。
「マオ、とにかく、ひとを信用しすぎないよう。そこが一番心配だ」
「はい。気を付けます」