異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
サローちゃんが喚いた。「なに云ってるの?!」
「ずっと考えてたことだ」
メーデさんは頷いて、マグを椅子の上へ置いた。「じいちゃんは歳をとった。そろそろゆっくりしたい。そして、サローは充分ひとりでやっていけるくらいの腕がある」
「やだ」サローちゃんが頭を振る。「わたし、薬をつくる以外のこと、全部じいちゃんに任せてきたから、なにも解らない。なにもできないよ。弟子たちだって、わたしよりじいちゃんが好きだもの。じいちゃんが居なくなったら弟子も居なくなる」
「それはどうだろうな。サローの腕は皆、認めてる。なあ、そうだろう?」
メーデさんがカウンタの向こうへ声をかけた。
と、二十代から三十代くらいの男女五人が、おずおずと出てきた。サローちゃんが目に涙を溜めて、そのひと達へ云う。「あんたたちもじいちゃんを引き留めて。小娘に顎でつかわれるのはいやだって」
「あの」
いつも俺にお茶をだしてくれる女性が、被っているヘジャブを外した。「わたし達は、サロー先生がここを継いでも、辞めません」
「は?」
「サロー先生は凄いから、勉強になります。俺、前勤めてたところでは、きっちりしてるって誉められてた。でもここに来たら、雑だし手際が悪いって。おざなりになってたところを全部指摘されて、俺調剤の腕が上がりました」
「わたしも、薬材を同じ大きさに切り揃えたり、一旦ふかしたりするの、面倒でごまかしてました。サロー先生はそういうの疎かにしないから、叱られるとこわいけど、自分の為になってます。ちゃんとできた時は凄く誉めてもらえるし」
五人は申し訳なそうに目を伏せて、そんなことを口々に云った。
サローちゃんが身を捩る。「いつも怒鳴ってるでしょ! こんなふうに! 歳下の耳持ちに怒鳴られて、単純作業ばっかりやらされて、いやじゃないの?!」
「サロー先生が怒鳴るのはわたし達が失敗した時だけです」
お茶の女性がにっこりした。「普段から声が大きいけれど、あれくらいでないと、作業場では常に火をたいているから聴こえません」
「でも……」
「サロー先生、僕たちはサロー先生みたいになりたいんです。どんな工程もきっちりこなし、妥協しない、先生みたいな完璧な調剤をしたい」
サローちゃんの耳がへたる。
メーデさんが立ち上がって、孫娘の肩を抱いた。「サロー」
「……むり。わたし、失敗してもじいちゃんがなんとかしてくれるって思えないと、できない」
「大丈夫だ。お前ならやれる」
「失敗しちゃうよ」
「失敗したらいい。誰が困る?そんな時はこっそり処分してしまえばいい。誰も気付きやしない。長持ちする薬だって、十年もすりゃつかえなくなるんだ。劣化がはやかったと思えばいいだろ?」