異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
朝食のトレイには、レアディさんのおにいさんが焼いたパンをふたつつけた。
できあがったものをツァリアスさんとアーレンセさんが運んでいく。優先は泊まりのお客さん。
サッディレくんは、グロッシェさんの要請で、流しの横に立ってお水を出し続けていた。
レアディさん、ルッタさん、セロベルさんとリエナさんの分のトレイを仕上げた。リエナさんがテーブルへ運んでくれる。セロベルさんがお茶を配り終えて戻った。「お先」
「はーい、どうぞ」
なんだか随分大所帯になったなあ。バターとパンをおろしてくれる農家さんや、パスタの卸しさんもいる。不思議だ。
そう云えば、異世界に来て一月以上たったな。あっという間だったけど、そうか、一月も経つんだ。……もとの世界に帰れるのかなあ?
「まーお」
物思いに沈んでいると、中庭側から声がした。
見る。このところ、夜以外常に開け放たれた扉の向こうに居るのは、メイラさんだ。しかも、ライティエさんを背負っている。「ごめん、なんかあったかいもんない? ライティエがおちちゃってサ」
レアディさんとルッタさんが席を譲ってくれて、ライティエさんはぐったりしたまま椅子に座らされる。メイラさんがふうと息を吐いた。「わたしらの要領が悪いから、ライティエばっかり負担が増えちゃって。ああ、あと副協会長もね。あちらさんはぶっ倒れたよ」
「またかよ」セロベルさんが温かいお茶を持ってきた。「ほら。ライティエ?」
うーん、と唸って、ライティエさんはうっすら目を開ける。
メイラさんが覗き込んだ。「大丈夫?」
「……い……」
「ん? なんだい」
「……いいにおい~……!」
ライティエさんは絞り出すように云って、テーブルの上のパンをわしづかみにした。そのまま口許へもっていき、がつがつと食べる。
メイラさんが呆れ顔になった。「あんたってば、いつもこうなんだから。マオ、あったかくて腹持ちのいいもの頂戴。ライティエ、あんたの弁当全部くったのに、おなかすいたーって喚いて寝ちまったの」
はあ。なんだか親近感がわく。
俺は焼きたて熱々のラザニアもどきをお皿によそい、ライティエさんの許へ持っていった。いつの間にかグロッシェさんが居なくなっている。メイラさんやライティエさんに姿を見られるのは、まだ抵抗があるよう。
パンでだいぶ復調したライティエさんは、ラザニアを三十秒足らずで平らげた。セロベルさんが苦笑いで、自分のお皿を渡す。埒が明かないので、バットをそのまま、リエナさんに運んでもらった。ライティエさんの心底嬉しそうな顔は、もとの世界に戻ったって絶対に忘れないだろう。