異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
妹のせっけんづくりに付き合わされた(結果的に俺のほうがはまりこんだ)甲斐があった。異世界でせっけんまでつくれてるぞ! スゴーイ!
眠すぎて精神がやられている。セロベルさんの助言に従って、寝よう。
でもストックどうするかな、とお鍋を見ながらなやんでいると、リエナさんがくすっと笑った。「マオ、わたしがこのお鍋見といてあげるわ。あなた凄く眠そう」
「え、いいんですか」
「最近こっちのお手伝いばかりしてるから、家に帰ってもわたしの仕事がないのよ」
リエナさんは冗談っぽくそう云って、俺の肩を軽くはたく。「マオが疲れてるとセロベルが心配するわ」
なんだか沈んだ声だったが、俺は眠い頭でなにも考えられない。
パンにつくりおきのローストビーフを挟んだ簡単なお弁当と、つくりおきのクッキーを用意し、サッディレくん達に託した。俺は豚ストックをリエナさんに任せ、部屋へひっこむ。
記憶がない。すぐに寝たらしい。おなかが空いて目が覚めた。
ベッドの上で上体を起こし、ぼーっとする。お昼時は過ぎたろう。お茶の時間かな。お菓子の用意をしなくちゃ。
きがえた。あと、あしが気持ち悪かったので、洗った。歯を磨いて、顔を洗って、それでしゃっきりした。
手洗いへ行ってから井戸端で手を洗い、厨房へ這入る。「すみません、長いこと寝ちゃって」
「大丈夫っすよー」
サッディレくんがお茶を淹れていた。グロッシェさんがお皿を洗っている。アーレンセさんとベッツィさんで、なにかを切っていた。……パウンドケーキ?
どうやら、リエナさんが腕を振るってくれたらしい。袖まくりして、真新しいウエストエプロンをつけ、可愛らしい色と模様の布で頭を覆ったリエナさんが、ボウルの中身をまぜていた。
「リエナさん」
「ごめんなさい。勝手に焼いちゃった」
「ううん、ありがとう。助かります。わあ、おいしそう」
隣に並んだ。リエナさんは俺がどこになにを置いたか、を把握していたらしく、材料は欠けていない。ついでに、完璧な生地と完璧な焼き上がりだった。「凄いですね。俺もあとで食べます」
「それほどでもないわ……ジーナを見てたら、料理を始めた頃のことを思い出しちゃったの。楽しかったなあって。それで、うちはオーブンがないから、勝手に借りたのよ」
リエナさんはにっこりして、型に生地を流し込み、オーブンへ滑りこませる。俺は、足りなくなるであろうバターとたまごを収納空間から出した。
「可愛いですね、そのエプロンと、三角巾」
「そうでしょ? この間市場で見付けたの。ねえ、シロップ足りないわ」
「つくります」
お喋りしながらお菓子をつくる。ツァリアスさんがワゴンを押してアーチからあらわれた。「ふたきれ乗せたお皿を七枚。お茶が足りてないです」
「りょーかいでっす」
サッディレくんが走るように食堂へ行く。セロベルさんと俺が居なくても大丈夫なんだ、と思うと、なんだか感慨深かった。