異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
お客さんが這入ってきたので、席へ案内した。サキくんとリオちゃんは、テーブルの上で手を握り合って、顔寄せ合って楽しそうにお喋りしている。なんだかいい雰囲気だ。
「こんにちは」
「いらっしゃいませ……ミューくん」
ミューくんは、毛皮のローブのフードを外し、ぺこっと会釈した。
席へ案内しようとするが、すぐに帰るので、と制された。
「お菓子、買えますか?」
「うん。クッキーと、パウンドケーキ。どっちも包みひとつでエスター60個だよ」
「じゃあ、クッキーをふたつ、ケーキをみっつ分ください」
収納空間からクッキーの包みをふたつ、ケーキの包みをみっつだした。ミューくんへ渡す。ミューくんはぎこちない手つきで銀貨を2枚とりだした。うけとって、おつりのエスター4個を渡す。
「……あの」
「うん?」
「時間戴けませんか」
ミューくんは目を伏せる。「ジーナのことで、少し」
気になっていたので、俺に否やはない。頷いた。
お茶の道具をカウンタへ戻す。カウンタの向こうのサッディレくんへ低声で云う。「ちょっと外します」
「え?」
肩越しにミューくんを示す。「ジーナちゃんのこと」
サッディレくんもジーナちゃんが婚約破棄されそうだと知っているのだろう。ああ、と頷いている。
「すぐ戻るから」
「解ったっす。セロベルさん、お茶足りてませんよ」
サッディレくんはティーポットを持って厨房へとはいっていった。俺は踵を返し、待っているミューくんの許へと急ぐ。ミューくんは何故か、サキちゃんとリオくんのテーブルを凝視していた。
「ごめん。じゃあ、出よっか?」
「あ。すみません……」
「ううん」
ミューくんと揃って外へ出ようとした。マオちゃんいいひとか、とおにいさんから野次が飛んできたが、ツァリアスさんがお茶のおかわりを持っていくと静かになった。
外は、しとしとと小雨が降っている。ミューくんがフードを被り、俺もそうした。「寒いね」
「はい」
前庭にある、大きな槙の下へ這入った。停まる。
ミューくんは、俺から顔を隠すみたいな位置に立って、もそもそと喋る。
「……ジーナ、試験でへまをしたらしくて。落ちるかもしれないって、泣き喚いたそうです」
「ジーナちゃんが?」
想像できないのでつい訊き返してしまった。ミューくんは唸る。
「俺も信じられないけれど、……いや」
ミューくんは頭を振る。
「彼女が俺と結婚したってかまわないって思ってくれてるのは解るんです。今までの我慢とか努力が無駄になったかもって思ったら、泣くかもしれないし。ううん、きっと、泣いたんですよ彼女。でもそれって、俺とのことというか、そういうことじゃなくて、ジーナは疲れてるんじゃないかって思うんです。俺と結婚しろ、そうできるようにしろって、家族に云われ続けて」