異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
焼けただれた手の甲に驚いたアーレンセさんが悲鳴をあげ、マルロさんとターツァさんが来てくれて、火傷は治してもらえた。
ターツァさんは昨日の朝食以来四月の雨亭のファンになってくれたらしく、マルロさんに治療してもらった俺の手を掴んで力強く云った。「応援してるんで、頑張って下さい」
「はあ」
「なるたけ食べに来るっす!」
云うだけ云って、ターツァさんはマルロさんと厨房を出て行った。
サッディレくんがお茶の道具をワゴンへ並べる。「なにあれ」
「さあ。……あれかな、しゃっきんとりの?」
「っすかね」
サッディレくんは首を傾げ、セロベルさん急須かえてー、とワゴンを押していった。
前夜の疲れがあったが、賭場がひらかれる場所が解らなくなったら困るので、諸々終えた後に夜のまちへくりだした。
小雨のなか、毛皮のローブのフードを目深にかぶって、とことこと歩く。ワープできる魔法欲しい。
あほなことを考えてぼーっとしていたが、迷わずに辿り着いた。生き証人さん二号に挨拶して名簿に記帳し、ゴブレットを片手に羊だか山羊だかの踝を投げ、折角稼いだ貝貨をどんどんすった。
グエンくん達が来ていたが、団体さんとお喋り中で、手を振り合っただけだ。ティーくんはぐでんぐでんに酔っぱらった同年輩の男の子に纏いつかれて辟易していた。
「や、マオ」
「リーニくん」
リーニくんはしゃれた刺繍の施されたチュニックに、滑らかな絹のベルトを締め、灰色の毛皮のローブを羽織っていた。盛装だ。
リーニくんは俺の目を覗き込んで、低声で云った。「一足先に。……僕を売った、隣の縄張りの頭からのおわびの品だよ」
成程そういう理由か。
吃驚することに(リーニくんも吃驚だよと云っていた)、リーニくんに例の「宴会」の話を持ち掛けたひとは、されき達の目的を知っていたそう。リーニくんはいけにえだったのだ。
三人が捕まって、荒れ地送りはほぼ間違いない情況になった今、なんとか許してもらおうと「おわびの品」を持って平謝りに謝ってきたのだとか。
「それ……どうするの」
「え? ゆるすよ」
まじか。
思わずまじまじ見ると、リーニくんはははっと笑った。
「だって、僕はぴんぴんしてるし、こんな上等な毛皮ももらったしさ。こんな格好なら懐のあったかいお客をとれそうだもの。それに、自分のなわばりからは出せないよ、殺されるって解ってて」
「どこのなわばりからでも出せないと思うけど」
「マオは優しいなあー」
「リーニくんが同じ情況になったら同じことやる?」
「やらないよ」
リーニくんは驚いたみたいに目を瞠って、俺の頬を軽くつねった。「そんな酷い人間に見えるかい?」
「みえないよ。けど、……」
「同じ気持ちじゃなくても、理解できることはある。だろ?」
慥かにそうだ。理解したからって同意できるわけではないし、逆に理解していなくても同意はできる。
「許せないとは思うよ。でも、同情の余地はある。荒れ地おくりにする程じゃない。だから、夢みたいな毛皮で勘弁してあげるってこと。……じゃ、またね」
リーニくんはにこっとして俺から手をはなすと、短い髪を耳にかけ、いかにもお大尽らしい男性の許へすーっと歩いていった。