異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
俺はそもそも人間が気楽で単純にできているので、ジーナちゃんにまったく同じことが適応できるとは思わないが、参考にはなるだろう。
俺の言葉に、ジーナちゃんはこっくり頷く。「なんにせよ、わたし、お菓子やお食事を上手につくれるようになりたいわ。この間、とても楽しかったから」
「それはよかった」手を拭いて、ボウルとたまごをとりだした。「わってもらえる?」
ジーナちゃんは目をきらっとさせた。
たまごを割りほぐす。ジーナちゃんはすっかりたまごを割るのが上手になった。
小麦粉は目の細かいざるでふるっておく。お鍋にお水とバターをいれて、火にかける。
「なにをつくってるの?」
「ちょっとかわった生地だよ。初心者にも安心なつくりかただから」
ジーナちゃんは、すでに火をいれてあるオーブンの扉を凝視した。「絶対、お父さまに頼んで、つくってもらう」
バターとお水がわいたら、ふるっておいた小麦粉をいれ、てばやくかきまぜる。ジーナちゃんには、とりあえず見ていてもらうことにした。
粉っぽさがなくなって、まとまったら空のボウルへ移す。そこへ、割りほぐしておいたたまごを加える。かたさは、今日は少しゆるめ。と云ってもゆるすぎないように。
天板に生地を流しこむ。天板全体に、うすく。そうしたら、フォークで全体をつついて、薪をとりだしたオーブンへいれて焼く。余熱でいくことにしたのだ。ふくらんでいると思うが、扉は金属だし、なかを見る為に開けることもできない。もどかしいな。
余った生地をなたね油で揚げた。スプーンですくってぽとぽとおとすのは楽しい。ジーナちゃんはクッキーをつくった時のように、慎重かつ真面目に作業をこなした。「……服に油がついちゃうわ」
「ああ、エプロン買わなくちゃだね。明日、市場で見てみようか?」
自分がそういうことに頓着しない所為か、ジーナちゃんにエプロンをつけさせることを忘れていた。明日市場で見よう。
揚がった生地は、ふっくらふくらんで、小麦粉のいい香りがした。お砂糖をまぶす。揚げシューだ。「どうぞ。おやつだよ」
「いいの?」
「うん。この生地は、冷める前に焼かないと、巧くふくらまないんだって。ちょっと張り込んじゃって、天板が足りなかったから。みんなもどうぞ」
給仕さん達は待ち構えていて、嬉しそうにあつあつの揚げシューをとっていった。ジーナちゃんもおそるおそる指でつまみ、口へ運ぶ。
「……おいしい」
「そうでしょ。さくっとしてるところがいいよね」
よし、クリームもつくろうか。ヴァニラビーンズならある。