異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
次の生地をオーブンへいれる頃に、ジーナちゃんが戻ってきた。
「おかえり。……あれ? アーレンセさんは?」
「アーレンセ?」
ジーナちゃんがきょとんとした。
サッディレくんが、シュー生地を切る手をとめる。「アーレンセ、ついていかなかったのか?」
「……ああ、わたし達についてきていたのね。でも、市場の辺りでわたしを追い越していったわ」
……どういうことだろ?
サッディレくんが不安げにして、見てきます、と出て行った。
残された俺達は、なんとなく言葉少なにお菓子をつくり、持ち帰り用の揚げシューを紙で包む。揚げシューにあたたかいうちに切れ目をいれ、クリームを詰めたものだ。バタークリーム・カスタードクリーム・両方の三種類二個づつで、銀貨1枚。バターや牛乳をつかっている分どうしても割高になってしまう。
マサーラーチャイの淹れかたをジーナちゃんに教え、できあがったものを飲んでいると、服がどろどろに汚れたアーレンセさんとサッディレくんが戻った。ふたりとも、怒り心頭、という顔で。
ふたりは、帰ったことを伝え、厨房にははいらず風呂場へ直行した。
丁度、気のはやいお客さんがお茶を飲みに来たので、俺達はふたりについて話すこともなく接客した。シューサンドケーキは、銀貨1枚でふたつ食べられる。お茶はおかわり自由だ。
見たこともない香りのいいお菓子、だそうで、タルトタタン並みに数が出た。もっとかもしれない。さっくりした生地と濃厚で甘いクリーム、おいしいお茶付きだ。抗える者のほうが少ない。
事務仕事で疲れた、傭兵等級が高い警邏隊の面々も、シューサンドケーキに舌鼓を打っていた。「マオくん、これおいしい~。いったいどうやったらこんなすごいものつくれるのかしら~?」
ライティエさんはぱくぱくと、ふたくちでひとつを胃に収め、しあわせそうにお茶を飲んでいる。メイラさんとマルロさんは、言葉が出ないようだった。
「マオちゃん、持ち帰りってできるか?」
「はい。生地をあげてあるので、ちょっとこってりしますけど。これくらいの大きさで、むっつはいって銀貨1枚です」
「じゃ、それをとおもらえるかい」
「はい。帰りがけにカウンタまでとりにいらしてください」
ラールさんから銀貨を10枚うけとる。ラールさんは片目を瞑った。「里帰りの時は菓子のひとつでも持って行かねえと、リーニに手の甲をつねられっちまうんでね」
リーニくんに手の甲をぎりっとやられて辟易しているラールさん、を想像して、笑いを噛み殺した。なかよしだなあ。
ターツァさんがぐったりした様子ではいってきた。ライティエさんが手を振る。「ターツァ、仕事どうしたのー?」
「どうもこうもないす」
ターツァさんはライティエさん達のテーブルへまざる。「規則違反の還元があったんすよ。散々拘束されて今日はもう帰れって、ばかにしてる」